本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。 報告書の目次 |
Contents
第13 2世等へのサポートの必要性について
1 期待される支援策
設問 |
宗教2世問題について、あなたが必要だと思う施策(国・自治体や公的機関等による支援策含む)はどのようなものですか?(複数選択可能) |
集計方法 |
有効回答者全員を対象とし、横軸を「宗教2世問題について必要と思う施策」、縦軸をその人数で作成した。 |
結果と考察 |
①宗教団体の人権侵害・児童虐待行為に対する行為規制が最も多かった。 ②入信防止(上記選択肢4)や、離脱時の補助(上記選択肢5)やメンタルヘルス支援(上記選択肢6)なども上位に上がった。 ③児童時点でなされる虐待について法・政策の一定の支援や保護があるのであれば、児童時点でなされた行為に起因して長期的・恒常的に発生する問題についての対策もまた、社会は検討するべきではないか。 |
2 期待される支援策についての回答者の提言の例
●児童相談所の相談員の増員 |
事前に計画的に離脱できる準備を整えるための支援があると、安心して離脱できると思います。 |
・エホバの証人の場合は未成年でバプテスマを受けたのち、そのまま未成年で排斥となると直ちに経済的に破綻する。そのようなリスクがあることを広くSNS上で宣伝し、2世の子どもたちに問題を認識してもらいたい。また、信者となることを自分の判断で決定する能力が身につくまで(成人するまで)は正式な信者になれないよう法規制するのが良い。 |
・宗教的なことを原因とした児童虐待があることの児童関連施設への周知 |
・就職支援 |
・上記4は実際難しいのかもしれないが、実現すればとてもうれしい。 |
3 エホバの証人2世の児童の実例について
本調査には児童からの回答もあった。聞き取り調査を行った例を示す。
なお、個人の特定を防ぐために、個人の特定につながる情報は可能な限り削除している。
聴き取り対象者 |
エホバの証人の2世等の児童 |
聴き取り日時・時間等 |
2023年8月 録音録画を伴った約1時間30分の聞き取り |
聴取者 |
弁護士2名、弁理士1名 |
聴き取り事項 |
・本件調査に関する経験について ・宗教的な虐待を受けた場合に学校の先生への相談、児童相談所に通告などの対応ができるのか |
上記の聞き取り調査のうち、児童相談所や学校の先生に自ら通告や相談などができるのかについて聞き取り調査を行った結果を示す。証言者には、複数の同世代の2世等友人がおり、その同世代友人の状況について一般化して説明してもらった。当弁護団で整理すると以下の3点に集約される。
①まず、10歳未満の児童であれば、そもそも携帯電話をもっていないし、電話をかける自由すら無い。そのため、児童相談所(189)に通告するなどの行動を取らないと思われること。 ②学校の先生に相談・児童相談所に通告したあとに何が起こるか分からないため(保護が何かも分からない、相談・通告後どうなるかも分からない、その後保護者に更に虐待されるなどを恐れるため)。相談や通告するなどの行動を自ら取ることは無いだろうと思われること。そのため、独立できる経済的状況を自分で作れるようになるまで虐待を我慢するであろうこと。 ③小学生高学年位になると携帯電話を持つようになるとのことで、この点はエホバの証人の家庭とそうでない家庭での相違は感じないということ。ただし、SNSやインターネットは厳しく制限されており、特に離脱者[1]の情報サイトを見ることや、離脱者のSNSを閲覧していることが露見するのが恐怖で見ることが困難であり、外部情報に触れることが困難であるという。 |
なお、別の児童にも聞き取り調査をしたところ、最近は学校等に児童虐待に関する啓発ポスターが貼ってあるなどするため、虐待自体に関する知識は児童にはあるということであった。
ところで本報告書ではメンタルヘルスについても報告しており、回答した2世等について言えばうつなどの診断を受けた人が日本人平均の9倍いたことを報告したが、最近の研究ではうつ症状が強くなると相談したい気持ちが弱くなることが報告されていることは注目に値する[2]。
上記の情報に基づいて考えると、啓発ポスターなどで広く知らせることは極めて重要であり必要不可欠である一方で、児童の宗教的虐待を発見・保護するにはそれだけでは十分ではないという結論が導かれるのではないか。
すなわち、被虐児童はうつなどの精神的トラブルを抱えることが少なくないことは明らかなことから、学校の先生や児童相談所への相談したい気持ちがもとより弱いことが想定されるため、ポスターなどの啓発では宗教的児童虐待を発見・予防する上では十分とは言えず、それ以上の施策が必要なことを示唆していると言えるのではないか。
4 2世等へのサポートの必要性についての小括
(1) 本報告書で示した通り、①2世等は産まれてからすぐにエホバの証人に関わることが多く、幼年期から宗教虐待Q&Aに規定された児童虐待行為を受けながら(前述したとおり、宗教虐待Q&Aに規定された特定の児童虐待行為が、他の虐待行為の目的となり手段となるという複合的な構造を持つ。)、エホバの証人コミュニティー内で育ち、②忌避の原因になりうるバプテスマを未成年で受けている一方、③成人になってから、あるいは成人になる直前に離脱するものが多い。このことから、類型的に、被虐中は声を上げられないまま、(バプテスマを受けることにより)潜在的な忌避予備群となり、離脱した十代後半から成人以降、すなわち児童ではなくなった時に「忌避」を受けうるという構造になっていることがわかる。
このように2世等が現在は成人であるとしても、当該2世等が困難を抱える端緒は、児童期のエホバの証人特有の児童虐待行為にあるという事実を踏まえたサポート体制になっているのかをよく検討する余地があるのではないか。
(2) 多くの回答者が、シェルターや経済的サポート、メンタルヘルスなどのサポートの必要性について回答しているが、既存の公的制度でこれをカバーするものもあると想定されるなど、単純に公的制度の不備と評価するのは妥当ではなく、両者のミスマッチもあるものと考えられる。社会には、両者のマッチングをする機能が必要であることも含めて被虐児童だけでなく、成人した2世等のサポートのあり方について検討をしていただきたい。
(3) また、現在起こっている児童虐待については、宗教虐待Q&Aの周知に留まらずに積極的な声掛けをするなどその発見や防止のために強化できる可能性があること報告した。このような活動は宗教虐待に留まるものではないが、被虐児童の実態を調査した上で、相談しやすい仕組みはさらに強化する余地があるものと思われる。
出典
[1] エホバの証人は離脱者を「背教者」と呼び区別する。背教者は忌避の対象ともなりうるし、背教者との接触についても指導対象となりうる。
[2] 子どもが本当に困った時に「困ったら相談しましょう」というメッセージは有効か?
https://www.jahonline.org/article/S1054-139X(23)00347-6/fulltext