大学など高等教育に否定的な教えについて

本考察は、「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです。本報告書は2023年11月20日に公表されたものです。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

10 大学など高等教育に否定的な教えについて

1 宗教虐待Q&Aの記述

2 教団の高等教育についての教理運用の変遷

(1)エホバの証人の高等教育(特に大学教育)についての教え

エホバの証人は、長年にわたり「高等教育の危険」という言葉を用い[1]、高等教育を受けることについて「警告」なるものを出しており、高等教育(特に大学教育)について否定的である。

例えば教団は、かつて高等教育について「立身出世し,この世で偉い人間になることを勧める悪魔の宣伝」であるなどと直接的な否定的表現を用いてこれを教団内で教えてきた[2]。また、すでに他項で上述した通り、『目ざめよ!196988日号 p.15‐若い人々にはどんな将来があるか』は、「若い人々はまた、現在のこの事物の体制(注:一般社会のこと)の下で年配に達することは決してないという事実を直視しなければなりません。なぜなら聖書預言の成就という証拠はすべて、この腐敗した体制があと数年のうちに終わることを示しているからです。ゆえに、若い人々はこの体制の差し伸べるいかなる立身出世の道も決して全うすることができません」と述べたのち、大学教育に極めて否定的な意見を述べ、「建築、鉛管工事その他の実技は現在有用であるだけでなく、神の建てられる新秩序下(注:ハルマゲドン後の新しい世界のこと)の再建の仕事においてはさらに有用でしょう」と述べるなど、この世の終わりがごく近いので大学教育は避けるようにとの非常に強い推奨がなされてきたことが確認できる。

その後、20151月に公開され202311月現在も公開されている公式ウェブサイト「JW.ORG」の「最高の教育とは?」と題するビデオの中では、教団世界本部の最高指導者である統治体の1人が直接の説法をし、「これまで高等教育について警告を与えてきたし、その警告は今も変更されていない」という旨を公言しており、上記1969年時点の記事の内容と同趣旨の発言もしている(「大工や配管工など建設技術は今もハルマゲドン後も必要だ・ハルマゲドン後に医師や弁護士は必要ない」という言葉など)[3]

さらに、同ウェブサイト内の『エホバの証人について よくある質問 エホバの証人は教育についてどのように考えていますか』という記事は、「高等教育はモラルや神様との関係を損ないかねない」との項目を立てたうえで、「聖書にはこう書かれています。「災いを見て身を隠す者は明敏である。」エホバの証人は大学など高等教育機関の環境が,モラルや神様との関係によくない影響を与えることがあると感じています。それで,多くのエホバの証人は自分や子どもたちをそのような環境に置かないようにしています。」と述べ、高等教育への否定的な立場を今現在も示している。

(2) なお、教団世界本部及び教団は、このように「高等教育の危険」・「高等教育への警告」という言葉を繰り返すが、その一方で、「大学に行くことが罪である」と明言するわけではないし、教育については最終的には個人の決定であるという建前を崩さない。そして、こうした高等教育への警告をテーマとする場合、「信者個人の経験談」を取り上げて「大学教育に危険があることを感じた」という旨を信者個人が述べる事実を指摘するという手法も用いてきている[4]

したがって、エホバの証人内部において「高等教育を受けること」に関して、子どもたちが事実上どのような影響に置かれているのかについての丁寧な分析が必要であるし、その際には、他のテーマと同様に、公の出版物のみならず、長老だけにあてられた指示・長老だけが知っている制裁・集会や大会等における「講話」、「実演」、「経験談」が発するメッセージ・個々の会衆における個々の長老による直接の個別説諭などの、一般の信者が公に視認できない形で用いる情報伝達・伝播のシステムを考慮することが不可欠になると考えられる。

(3) ところで、1990年代までのエホバの証人の動きについて精緻な分析をしている「エホバの証人情報センター[5]」は、教団は1992年までは大学に否定的な運用をしてきたが、1992年に出版された『ものみの塔』において、この教理の運用を弾力化するような記述をしたことをきっかけに、当該教理の運用による進学希望信者への圧力が一時的にやや弱くなった期間がある可能性を指摘する(※但し、「エホバの証人情報センター」は1996年から2006年の時期に運営・更新がされていたものであり、かつ、当該時点においての進行形の分析、特に2000年頃までのエホバの証人内部の事象を分析していた媒体であることには注意が必要である)。

エホバの証人の高等教育(特に大学教育)についての教え

しかしながら、2011年になって「長老への手紙」という幹部への通知や「王国宣教学校」という幹部だけが参加できる集会などで「今後、長老もしくは奉仕の僕の子どもが、大学進学をするなら、その進学の理由を調査した上で、その親である長老もしくは奉仕の僕としての資格が再検討される」(つまり、子どもが大学進学した場合には、信者である父親[6]は特権が剥奪され得る)との通知がなされたという証言がある[7]。それに伴い全国的に運用が強化され、進学希望信者への圧力が再び強まったとの報告もある。

本調査の回答者は30代〜50代が中心であり、上記の図で言えば、ちょうど1992年〜2011年の「教団が進学についての否定的な教理運用を弱めた時期」との観察がし得る時期に進路選択を向かえる世代であったことは、本調査の回答を分析する上で銘記すべき点である。

また、2011年以降現在に至るまでは再び大学進学に否定的な教理運用が強化されている可能性があり、宗教虐待Q&Aに示された児童虐待が行われている可能性は高まり得る。

3 大学などの高等教育への否定的な指導の有無

大学などの高等教育への否定的な指導の有無

設問

教団は大学などの高等教育への否定的な指導をしていたと思いますか?
(一つお選びください)

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人を対象に作成した。

結果と考察

92%、518人が「大学等の高等教育に否定的な指導をしていた」と回答した。

4 大学等の高等教育についての教団の教えはどのようなものだったか

大学等の高等教育についての教団の教えはどのようなものだったか

設問

大学などの高等教育への否定的な指導について、教団からどのような教えがありましたか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思うと回答した人を対象とし、横軸を「教団からの教え」、縦軸をその人数で作成した。

%の数字はそれぞれの回答人数を「教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思う」と回答した518人で割った割合を示す。

結果と考察

①「この世での成功を追い求めるのは良くない」とする回答が約93%でトップ。

②続いて、「この世では開拓奉仕[8]をすべき」(ほぼ同じ約93%)となった。

5 高等教育否定に関する指導方法

高等教育否定に関する指導方法

設問

上記の高等教育への否定的な指導について、どのような方法で指導がなされていたかあなたのご認識を教えてください。あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思うと回答した人を対象とし、横軸を「どのような方法で指導がなされていたか」、縦軸をその人数で作成した。

%の数字はそれぞれの回答人数を「教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思う」と回答した518人で割った割合を示す。

結果と考察

①保護者により大学進学を認められなかったり、本人の自由な意思決定が阻害されたりしたことが量的に確認された。宗教虐待Q&Aの構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。

②保護者の働きかけ以外では、出版物での記載(上記選択肢1)、長老・巡回監督等の幹部信者の働きかけ(上記選択肢2)、大会や集会における講演での指示・暗示(上記選択肢3)、周囲の信者の働きかけなど(上記選択肢4)、教団の関与も量的に確認された。教団組織の関与は現行法のもとでは児童虐待とは言えず、何らかの対策が必要ではないか。

③本項目では、保護者の働きかけ(上記選択肢5)よりも、組織の働きかけ(上記選択肢1〜同4)が多く、高等教育への否定は教団主導のものと推認できる。

6 希望通りの進学ができたか

希望通りの進学ができたか

設問

あなたの実際の進学の有無について、下記のうちどれに一番近いですか?あてはまるものをお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思うと回答した人を対象に作成した。

結果と考察

①エホバの証人の教えを理由にして大学に進学できなかったとの回答は、4割に上った(上記選択肢2と上記選択肢4の合計)。

②成人後(壮年期も含む)にエホバの証人から離脱してから全日制大学・通信制大学・夜間大学に進学した2世等は少なくない数存在し、自らの努力で高等教育否定の影響を克服したケースも「進学できた」と回答している可能性があり、本データ結果は、各回答者の、現時点における最終的状況を反映したものであることに注意が必要である。

7 進学を理由とする本人・親族に対する教団内での不利益取扱い

進学を理由とする本人・親族に対する教団内での不利益取扱い

設問

大学などへの進学により、進学した本人や親族が教団内で不利益を被ったことを見聞きしたことがありますか?ある場合はどのような内容ですか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思うと回答した人を対象とし、横軸を「進学により不利益を被った内容」、縦軸をその人数で作成した。

%の数字はそれぞれの回答人数を「教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思う」と回答した518人で割った割合を示す。

結果と考察

①教団の方針[9]との因果関係を明確にすることはこの段階では不可能であるが、大学進学した本人、親族の地位の剥奪(特権を降ろされる)は、現実に行われていたことが量的に確認された。

②「聞いたことがない」が最多を占めるが、繰り返し指摘してきた通り、エホバの証人内においては一般信者が知らず長老だけに与えられる指示が存在するのであるから、その前提条件を考慮するとこの回答結果から「不利益取り扱いが存在しなかった」との結論を導くのか、「一般信者が知らない方法でこうした運用がなされていた」との結論を導くのか、評価については慎重さが求められるものと考える。

8 高等教育の否定的指導に関する自由記述の回答

201◯年、私は奉仕の僕でしたが、「王国宣教学校」が開催されました。そのとき、大学教育に対する組織の考え方が、再度明言されました。

それは、「今後、長老もしくは奉仕の僕の子供が、大学進学をするなら、その進学の理由を調査した上で、その親である長老もしくは奉仕の僕としての資格が再検討される」とのことでした。

大学にいく理由としては、「勉強したいから」か「就職に有利だから」くらいしかありません。そのどちらも、エホバの証人側からみた正当な理由にはなり得ないことは明らかですから、再検討というのは、つまりは、資格はく奪です。

2011
年以前、大学進学への否定的態度が若干緩まっていたような雰囲気はありましたが(出版物等で触れられなくなった)、はっきりと大学進学を否定されたかたちでした。

2009~2011年頃の千葉大会ホールでの巡回大会で地元の会衆の私より5つ学年が上の姉妹が経験で登壇し、その姉妹は地元でまあまあ有名な進学校に通っていて語学が好きで外語大学に進学しようと思っていたけれど周りの姉妹や兄弟から励まされ、学校からの推薦を貰っていたのを断って進学するのを辞めました。語学は自分が独学で学べるし、王国会館での賛美の歌は英語で歌っています。将来は海外での奉仕がしたいです。と語った姉妹がいました。そんな事同じ会衆の人に言われたら私が進学できなくなるじゃないですか!と思った記憶があります。

3歳ほど年上の姉妹(注:エホバの証人内では女性信者のことを「姉妹」と呼ぶ)は、父をガンで亡くし、母もヘルニアで十分に働けず、中学生の妹もいるという状況だったので、家族のため、看護系の学部がある大学に行って家計を支えようとしたが、会衆の姉妹から「神への信仰がない」とバッシングを受けて、かなり傷ついていた様子でした。

子どもが大学進学したとの理由で、父親が長老を削除された。

子どものころから進学よりも奉仕、まもなくこの世は終わると教えられていたので、進学という選択はなかった。考える余地がない、

子供が、大学に行って長老を降ろされた。
子供が就職したから、親は特権を与えられない。

子供が進学した場合、父親であれば奉仕の僕や長老という立場を剥奪され、母親であれば開拓者という立場を剥奪されていました。

子供が大学に行くと親は開拓奉仕から下される。ある姉妹は息子が東大に行ったら助言を受けて血圧が上がって倒れた。大学いくと30歳くらいまでなんの立場をもらえないが特別な技術があるとバンバン用いられる。

子供が大学に行った当時同じ会衆の援助奉仕者の兄弟は『家族を治めていない』と特権を降ろされました

子供が大学に進学して離れた場合、子供をちゃんと躾けられなかった人というレッテルが貼られていたように感じる。

子供が大学に進学することを選んだ時、親が「助言」を受けるということは聞いていました。母にそんな屈辱を味あわせたくありませんでした。また、大学に進学した人の親が「長老」や「僕」であった場合、「特権がはく奪される」というのは聞いたことがあります。

子供が大学へ進学すると、親が長老になれない。

子供だったので、あまりわからないですが教団内でのランクが下がった様に見えました。無視する信者や、奉仕活動を怠る悪い人といった話をしている人が数名いた。

9 保護者の同意が必要な書類記入拒否等による進学等の制限

保護者の同意が必要な書類記入拒否等による進学等の制限

設問

保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等により、進学や就職を実質的に制限されたことがありますか?

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教団は高等教育への否定的な指導をしていたと思うと回答した人を対象に作成した。

結果と考察

緊急連絡先の記入拒否等による児童虐待は9%、45件確認された。

ただし、本項目の虐待はエホバの証人の教団内で一般的に運用されるものという情報はなく、各家庭の事情と言える可能性が高い。

10 高等教育否定の経験に関する自由記述の回答例

設問「大学などの高等教育の否定的な指導について、お感じのこと一切をご自由にご記入ください。 5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どういった指導がなされたか)を要素としてできるだけ詳しくご記入ください。もし、長老や幹部信者から指導や推奨があったケースに遭遇されたことがある場合には、その点も併せてご記入ください。なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。

会衆では高校はNHK学園という通信教育を受けるのが推奨されていたと思います。

長老達は進学よりもベテルで働く事を目標にしろと若い人には言っていた。

母親や会衆の成員から、大学への進学は、悪い交わりが増え、エホバから離れる要因になるから、とか、世の誘惑を受けるからダメだと言われた。

高校は地元の進学校に入れたが、その高校を出て、開拓者をしている成員を褒め、見習うよう言い諭された。

幼い時から、集会や大会、自宅での親との研究で、信者たちが、私に対して、この世で高等教育を追い求めるのは、サタンの世での成功を追い求めるもの、口頭での経験の話や、出版物、ビデオなどを用いて指導されました。この世の成功を追い求めるより、エホバの証人の活動に携わる方が素晴らしいと、長老や幹部信者から推奨されたこともあります。

男子基本工業高校卒業後パートの仕事をしながら正規開拓を目指して、補助開拓をしていた気がします。大学進学していたのは大半ご主人が未信者の場合と集会にあまり来ていないエホバ証人2世がいたと思う。自身は親が長老だったので正規開拓への道しかなかった

(現在4◯歳)より5歳くらい上の年代は、大学や専門学校への進学も雰囲気的に許されていなかった。卒業と同時に非正規雇用などで働きながら必要な大きな所に行って奉仕するのが模範的たった。

でも私の2.3歳くらい上の世代から、専門学校くらい許されるようになり、就職者もチラホラ出てきたように感じる。

わずか数年の差で、世間的なキャリアや収入に大きな差が生まれ、結婚もできなく苦しんでいる人がいる。

エホバの証人は進学はだめ。

高校は商業高校ならギリギリOKといったところでした。

通信制を選ぶのが最も模範的で

その次が商業高校

進学校など絶対に許されない雰囲気がありました。

私も大学進学したいからと、進学校を選んだときに何度も呼び出され、訪問され…。

長老や幹部から何時間もお説教のように説得されました。

その説得が集会後だと深夜になるのですごく負担でしたし、エホバの証人としてふさわしい高校を選べと手紙もたくさん手渡されました(このときの手紙は手元にあります)

組織も巡回監督も長老達も、皆高校卒業後は開拓奉仕をとらえるように助言してきました。

通信制の高校に在学して開拓者になった人々などは特に模範的だと持ち上げていました。

大学教育は、疑念の種を心に撒かれてしまうので進学は信仰を危険に晒すなどと教えられました。

本人の特定を避けるために「◯」の加工を当弁護団で行っています。

11 高等教育に否定的な教えについての小括

(1) 教団が、信者に対して大学進学を主とする高等教育に否定的な指導をしていたことが量的に確認された。

(2) 信者である「保護者」が、児童本人が進学を希望し、経済的には進学が可能にも関わらず、教理を理由として進学をさせないことが量的に確認された。

また、信者である保護者によるこれらの行為は、宗教虐待Q&Aに示された構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。同時に、「交友・交際・娯楽の制限」の項目と同じ結論が導き出されると考えられる。すなわち、高等教育を受けられないこと(主に大学進学ができないこと)は、①進学できた場合に比較して一般社会との接点が大きく阻害され(これには信者以外との「人的」関係構築の機会・エホバの証人教理以外の「思想・信条・情報」に触れる機会、及び、受けた高等教育に基づき同教理を見つめなおす機会の喪失が当然に含まれる)、②就職や専門職選択の機会が大きく阻害され、結果として、③成人後も本人が望むと望まないとに関わらず、エホバの証人社会だけが所属する社会基盤となり、そこから離脱できない又は著しく離脱しにくいという状況を構築し得るものである。

(3) 「教団が」出版物や大会・講演などを通じて、大学教育を含む高等教育を否定的に教えるという実態も確認された。時期によってその程度は異なるが、信者に対して大学教育を「危険なものである」として進学に対して否定的な教えを広め、高校卒業を控える信者に対して直接的に大学進学をしないよう勧めるような事象が見られること、大学進学を選ばなかった信者を称賛し、会衆内において進学に対する否定的な雰囲気が形成されていたことからしても、教団が信者による児童虐待を促進していると言えると考える。

加えて、一部の幹部信者に対して、本人又は自身の子どもが大学進学等の高等教育を選択した場合に、一定の場合には、組織内での役職をはく奪するような運用がなされている旨の報告があり、仮にかかる運用がなされている場合、いわば懲戒を背景に大学進学を阻止しているに等しく、児童に対する児童虐待に実質的に関与又は加担している解釈し得る。なお、上述の公式ウェブサイト「JW.ORG」の「最高の教育とは?」と題するビデオの中では教団世界本部からの指示により教団世界本部のメンバーでありながら法科大学院に進学して弁護士資格を取得した信者がインタビューに答えている(そのような状況でありながら当該信者は高等教育が危険である旨を述べている)こと、教団(つまりは日本国内)においてもこうした世界本部での行為と同様の行為がなされていること、教団の最上層部の幹部に有名大学出身者が複数いること等を指摘し、こうした事実に強い反発を表明する2世等が複数存在した。

こうした現状につき、2世等から「多くの若者の大学進学の機会を実質的に奪いながら、教団の公の教えに反して一流大学を出た信者については翻って重用するという姿勢はまさに不誠実な二枚舌としか評価しようがない」という旨の意見が多く寄せられ、当弁護団もそうした評価が生じるのは当然のことであると考える。

もっとも、教団による高等教育への否定的な教えと、これに基づく信者の保護者に対して子どもの大学等への進学を避けるよう強く推奨する行為は、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと解され、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。

出典

[1] 『長老の教科書‐神の羊の群れを世話してください 830

[2] 『ものみの塔196971p.396

[3] この発言は『「エホバの証人:その危険な内部に迫る」』(2021913日オーストラリアの公共放送(ABC放送)にてテレビ放映されたドキュメンタリー)が詳しく扱っている。

[4] 他の例として『ものみの塔 20196月号』のには、以下のような記述がある。

「クリスチャンの中にも大学教育を受け,神の考え方ではなく人間の考え方を持つようになってしまった人たちがいます。それがどんな結果につながるか,1つの例から考えましょう。15年以上全時間奉仕をしてきた姉妹はこう述べています。「バプテスマを受けていましたし,大学教育の危険について読んだり聞いたりしていましたが,そのような警告を受け流していました。自分には当てはまらない,と思っていたのです」。姉妹の考え方は大学教育によってどんな影響を受けたでしょうか。こう述べています。「今考えると恥ずかしいのですが,大学教育のせいで,他の人,特に兄弟姉妹を批判的な目で見るようになり,できていないことが気になり始めました。兄弟姉妹と距離を置くようにもなりました。考え方を正すのに,長い時間がかかりました。この経験を通して学んだのは,天の父エホバが組織を通して与えてくださる警告を無視するのは非常に危険だ,ということです。エホバはわたしのことを,わたし自身よりもよくご存じです。エホバに従っていればよかった,と後悔しています」。

[5] エホバの証人情報センターの分析 http://www.jwic.info/educatio.htm 

[6] エホバの証人内部では男性信者でなければ長老・援助奉仕者(旧奉仕の僕)のような特権的な立場に就けず、女性との扱いが決定的に異なる。

[7] 実際、『長老の教科書‐神の羊の群れを世話してください』の「8章 長老や援助奉仕者の資格の再検討が必要かもしれない状況」の30には「 本人や同居している家族が高等教育を強く望んでいる場合」との項目が挙げられている。

[8] 「開拓奉仕」とは、毎月、一定の定められた時間以上を伝道活動に費やす立場のことをいい、エホバの証人内では「全時間奉仕」と別称されるなど一般社会における仕事・活動よりも伝道活動に捧げる時間の比率が多いとみなされる立場である。実際、開拓奉仕をしている場合、一般社会で通常の正規雇用につくことは著しく困難であると考えられる。

また、エホバの証人組織内で一定以上の立場に就くには「開拓奉仕者」であることがほぼ絶対の条件であると判断できる状況である。

[9] 2011年前後に幹部向けの通知や教育でなされた「今後、長老もしくは奉仕の僕の子供が、大学進学をするなら、その進学の理由を調査した上で、その親である長老もしくは奉仕の僕としての資格が再検討される」とするもの。また、エホバの証人の内部資料である『長老団への手紙201236日』には、長老や援助奉仕者が他の者に大学教育を薦める場合、その役職にとどまるのはふさわしくないとする幹部向けの指示が示されているとの報告がある。

上述しているが、本報告書作成時点(202311月初旬)でも『長老の教科書‐神の羊の群れを世話してください』 830の中で「長老や援助奉仕者の資格の再検討が必要かもしれない状況」として、「本人や同居している家族が高等教育を強く望んでいる場合」という項目が設けられており、この方針が現在進行形で継続している。