2世等のメンタルヘルス

本考察は、「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです。本報告書は2023年11月20日に公表されたものです。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

12 2世等のメンタルヘルスについて

1 エホバの証人の心理的ストレス

回答者の心理的ストレス状態を可視化するための一般的手法である「K6[1]」と呼ばれる評価手法を用いて比較調査を行った。比較対象は厚生労働省の実施する国民生活基礎調査[2]とした。

※本項目は北海道大学の清水香基先生に監修していただきました。

心理的ストレス

設問

K6とは、以下のような設問をし、合計点を比較するもの。

K6の内容

集計方法

回答者全員で集計した。

結果と

考察

国民生活基礎調査の母集団と比較して、本調査では高いストレスを感じる回答者の割合が多いことが分かった。

2世等の心理的ストレスが高いことが量的に確認された。

2 メンタルヘルスに関する疾患で診断を受けたことがあるか

メンタルヘルスに関する疾患で診断を受けたことがあるか

設問

エホバの証人に関与していた事が原因で精神的な不調を覚えたことがありますか?
思い当たるものを全て選択してください。あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

有効回答者全員を対象とし、横軸を「どのような精神的不調を覚えたか」、縦軸をその人数で作成した。
%の数字はそれぞれの回答人数を「有効回答者」578人で割った割合を示す。

結果と考察

①約75%が「孤独感・疎外感・自脱願望・または自尊心の欠如などネガティブな感情を感じた」と回答。

②約29%が「PTSD、うつなどの診断を受けた」と回答。
日本人平均(3.3%[3])の約9倍であり、極めて多い。

3 離脱年齢別にみた精神的不調

離脱年齢別にみた精神的不調

設問

エホバの証人に関与していた事が原因で精神的な不調を覚えたことがありますか?

思い当たるものを全て選択してください。

集計方法

エホバの証人から離脱したことがあると回答した人を対象とし、
横軸を「離脱した年齢」、縦軸を「どのような精神的不調を覚えたか」の件数で作成し、色分けした。

結果と考察

①精神的な不調と離脱年齢にはほとんど関係がないことが確認された。児童の時に離れても成人してから離れても精神的な不調にはつながることが確認された。

②これは、エホバの証人の2世等は極めて抑圧的に育てられるためであると思われるが、メカニズムを解明して問題を防止するには専門的な研究が必要であると思われる。

4 メンタル面の不調の経験に関する自由記述の回答例

設問「メンタル面での不調について、お感じになること一切をできる限り詳しくご記入ください。なければ「なし」とご記入ください)」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。

・今も、昔の記憶がよみがえると、鬱状態になり、一日寝込んでしまいます。

また、私は、知的好奇心が強い子供だったので、美大に行きたかったのに

それに挑戦すらさせてもらえなかったことや、

自分のレベルより相当低い偏差値の高校に通わされた辛さ、

勉学の道を断たれたことを思い出すと、悔しくて眠れなくなります。

私のようにメンタル不調を抱えたり、また、大人になってから本格的に鬱になる人がとても多いと聞いたことがあります。

・鞭を見たり、また、ぴしゃんという、叩く音を聞くと、身が凍り付き、固まるという

自動的な心身反応が、今も出ます。

・エホバの証人の親たちが、表では良い顔をして、裏では

子供を鞭で叩いたり、また、他の華夏親の悪口を言い合っているのをみてきたため、

人を信じられません。疑い深くなり、人間関係に非常に苦労しています。

また、人の顔色を伺う癖がついているため、いつもびくびくしていますし、

訳の分からない事で鞭で叩かれてきて、集会に行かない選択をした時から

極悪人のように扱われているので、

自己肯定感が著しく低く、いつも不安症で、強迫観念があり、自信が持てず、非常に生きにくいです。

それは滲み出てしまうものなので、ズルい人に利用されたり、搾取されることが多いです。

・不幸な状態、威圧される状態、虐待される状態が普通だったため、

DV傾向がある暴力的な、知能が低い男性を、無意識に夫に選んでしまいました。

人生を壊されたと感じます。

生まれた子供には障害があり、夫の協力はなく、悲惨な状態で、なんとか生きています。

それでも、実家に戻るよりは1000マシで、10000倍自由があるので、

離婚はせずに生きています。

(信仰しないのなら)養育したくない」と言われたことや他の信者が子に対して「信仰しないならあなたを殺して私も死ぬ」というような脅しをしていたので、ハルマゲドンに対する恐怖よりも「信仰しないことは死を意味する」という恐怖の意識が強かった。また母が自分たち兄弟や父よりも教義を大切にすることから愛情をかけてもらったという意識が薄いため、離脱後不安障害になり不特定多数の異性との性交渉をやめられない時期があった。今も疲れやストレスを過度に感じると「消えてなくなりたい」と思うことがある。

いつも団体内での信者としての顔と、一般的な社会に向ける二つの顔で二重人格のような生活をしてきた。30年近く、一般人として世の中になじんでも、これまでの人生を語れることがなく、宗教に壊された過去を隠して生きなければいけない苦しさがあります。無理やり入信させ、家庭を破壊そた母親に対しても恨みがあり、いまだに許すことができません。

今までのコミュニティーを抜けて今まで「世」と退けてきたコミュニティーの人間関係を構築していかなければいけなくなるのはとても大変の経験だと思います。世を滅びる集団とひとくくりにして、交友を遮断させて楽園で生活する純粋培養の2世、3世を作っていくような日本の組織のやり方は組織の中では通用するかもしれませんが、一歩外に出ると何も通用しない(私の場合ですが)。きちんと世の中で就職し社会常識を学びながら人間関係や仕事の経験値を増やしていく教育が必要で、私には社会で活動していた反対者の父がいたので社会復帰に理解があってなんとか家族や仕事を持つことが出来るようになりました。あの組織の中でもいろんな家庭があり、すべての人が同じ環境とはいえないですが、世の中の教えがすべて毒が含まれているという教えを受ける部分でメンタル面の不調が発生する気がします。

一般の方が通常に持っている自己肯定感、承認欲求、顕示欲といったものを「抱くこと自体が悪いこと」という認識がずっと抜けない。

社会人になり、上席との面談といったときにも「自己肯定感が低い。自分の良いところを客観的に見つけて欲しい」と言われるが正直無理な話である。

世の人と仲良くするなと生まれた時から育ったので友人や恋人ができず社会に出てから人と関わるのが辛く就職もできずパートを転々としている状態で不安が強く人前が苦手で現在うつの薬を飲み精神科に通院しています。

小学◯年生頃から毎日死にたいと思っていました。その頃はストレスから髪の毛やまつ毛を抜いたりしていました。ベランダから飛び降りようとしたりしていました。

信仰の強要や、鞭打ち、兄たちからの暴力などもあり辛い日々でした。兄たちも精神を病み、1人はうつ病になり不登校、もう1人も不登校になり強迫性障害などで苦しんでいます。

私自身も高校◯年生の時不登校になりうつ病と診断されました。その頃から薬を服用し、薬を飲まなくても良くなるのに5.6年かかりました。今はうつ病は完治していますが、未だに自分に自信が持てず、私の1◯年間は何だったのかと思うことがあります。家族もバラバラになり、それぞれに皆苦しんでいます。

恐怖感は常にあり異常な怖がりである。大きい音などは今でもビクッとなり体がこわばる。週に3回以上涙がでてくるしフラッシュバックがある。自己肯定感が低く、自身で決定をするのがとても難しい(時間がかかるがトライしている)。周囲の人間を信じることが難しい、見捨てられ不安がある。回避の傾向がある。

本人の特定を避けるために「◯」の加工を当弁護団で行っています。

5 エホバの証人の活動とメンタルヘルスの関係についての小括

(1) 本調査結果では、「PTSD、複雑性PTSD、うつ、又は(アルコール、薬物などの)依存症等の精神的な疾患と診断を受けた」とした2世等の回答は、日本人平均の約9倍であった。また日本人平均と比較して心理的ストレスが多いことも合わせて分かり、両者は整合する。

(2) 170人の上記診断を受けた2世等につき、エホバの証人であること以外に共通する事項は見いだされなかった。そして、一般経験則からいえば、児童の頃からハルマゲドンや鞭の恐怖で支配され、宗教虐待Q&Aに示された虐待行為に留まらず忌避による人権侵害にさらされれば、かなり高い確率でメンタルヘルスに医師の診断を得る程度の症状になり得ることは当然の帰結であり、エホバの証人活動が診断を受けた症状の原因であることが推認される。

(3) 教団は、このような宗教活動により引き起こされている可能性のある心因性の症状につき、事実の調査・検討・公表・謝罪等の道義的責任と真摯に向き合うべきではないか。

出典

[1]  K6 は Kessler et al. (2002) によって開発された心理的ストレスの指標として用いられる尺度である。日本語版は古川ほか(2003)によって作成されており、本調査でも同様の質問文を用いた。

[2] 厚生労働省が「統計法」に基づいて1986年から毎年実施している調査2019年の回収客対数は218 332世帯となっています。

[3] 厚生労働省中央社会保険医療協議会総会資料参照。平成29年の有病率は419.3万人に対して平成29年時の人口は1.267億人で有病率は約3.3%。