【エホバの証人調査】の概要

本考察は、「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです。本報告書は2023年11月20日に公表されたものです。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書の概要

(1) 本報告書の結論概要1 信者による児童虐待の量的確認がなされたこと

ⅰ 202352日〜630日に宗教虐待Q&Aの基準に沿ってエホバの証人について調査したところ、主にエホバの証人2世等から583件(有効回答は581件)の回答が得られた。当該調査には録音録画を伴う長時間の個別聞き取り等が含まれる。

 

ⅱ 本調査では、①広く知られた鞭に留まらず、②輸血拒否カードの携帯、③伝道の強制、④大学進学等高等教育への否定的な働きかけなど、宗教虐待Q&Aに則して調査を行ったが、設定したほぼ全ての質問項目で虐待行為についての回答が量的に確認された。

虐待行為につき、本調査結果からは①数十年と極めて長期にわたり(時間的要素)、 ②日本全国でみられ(地理的要素)、③定型的な類似性を維持していること(類型的であること)、が確認されたことから、かかる信者による2世等に対する虐待行為は、単なる個々の信者の家庭内の個別の問題又は被害をうけた2世等の信者個人の体験談として矮小化させるべき問題とは決して言えない。

 

ⅲ 宗教虐待Q&Aに記載された児童虐待は、一部を除き、現在も行われている可能性が高い。ただし、被虐待児童は親に知られることを極端に恐れたり、経済力・自立力がないという理由やそもそもどうしたらよいかがわからない・そうした発想すら浮かばない、等の理由で児相への通告を行わず(又は望まず)、また自ら通告していないことの証言が得られた。

現在行われている児童虐待の把握には社会の側の相当の理解と努力が要求されることが明白と思われる。

(2) 本報告書の結論概要2 教団と児童虐待の関係性

 ⅰ  本調査結果からは、教団が、宗教虐待Q&Aに記された「虐待」に該当する複数の行為につき、教理を根拠として、実質的に指示もしくは推奨することにより関与・加担し、又は、個々の信者による2世等への虐待を促進・黙認(もしくは黙認による促進を)・許容してきたと言わざるを得ないと判断される。

 なお、本報告書では、宗教虐待QAに記載された個別の児童虐待行為とそれぞれにおける教団の関係性の評価を、それら虐待行為ごとの個別の項目において行っている。

 

ⅱ 教団広報は、マスメディアによる個々の取材に対して、宗教虐待Q&Aに記載された虐待行為についての教団としての関与を否定し、「もし虐待があったとしたら教団の教えの解釈を誤った信者らの責任である」という趣旨の見解を公言している[1][2]

かかる教団の弁明には、以下の理由から信用性がない。なお、下記の項目が、宗教虐待Q&Aに記載されたすべての虐待行為に該当するわけではないが、該当しない行為ですら他の該当し又は該当しうる虐待行為の目的又は手段となって機能している関係にあり、虐待行為全般について下記の理由又はその趣旨が当てはまるものと当弁護団は考える。

① 宗教虐待Q&Aに記載された虐待行為が日本全国であまねく、数十年にわたり行われてきたこと。

宗教虐待Q&Aに記された虐待行為が、日本全国において、遅くとも1970年代[3]から現在に至るまで(虐待行為の類型によっては、2010年代頃まで)続いてきたことが被害者により証言されている。虐待が個々の家庭の問題にすぎないのであれば、ⅰ.異様なほどに画一的で類似した態様の虐待行為が、ⅱ.日本全国で多発的に、ⅲ.数十年という相当長期間継続して実施されることはあり得ないと判断するのが合理的と思われる。

② 教団による宗教虐待Q&Aに記載された虐待行為に該当する行為への称賛/児童虐待該当行為を行わないことへの否定的な教え

宗教虐待Q&Aに記載された虐待該当行為(例えば子どもへの鞭、輸血拒否の意思表明を子どもにさせること等)について、聖書の原則に適合するものであるとして、長年にわたり称賛をしてきた。

教団が発行してきた出版物はこれを示しており[4]、集会・大会等において口頭で示される教えがこれを裏付けるとする訴えも非常に多い。

また、本件調査により明らかになった顕著な点として、教団は「一般人も見ることができる公の出版物」とは別に、長老だけに手渡される書籍・長老だけに通知される書面・長老だけが参加する定期的な会合・集会及び大会においてなされる説法や「実演」と呼ばれるごく短い寸劇方式のデモンストレーションなど、公にならず文字化されない情報伝達方式を強固に構築しており、これらの複雑に構築された情報伝達方式を使用している事実があり、この事実は、教団と児童虐待の関係性を判断するうえで不可欠である。

さらに、宗教虐待Q&A記載の虐待該当行為について、これらを行わない信者又はこれらに消極的な信者(ただし、時代にもよるもののそのような信者は極めて稀有であった旨の訴えは非常に多い)については、教団の教えに従わないことは子どもを愛していないことであり、ハルマゲドンにおいて滅ぼされることになるなど否定的な教えを繰り返し伝えてきた旨の報告が相次いだ。

③ 教団がいまだに宗教虐待Q&Aの内容を信者らに周知していないこと

2022年の秋頃から頻回になされたエホバの証人内の虐待についての一連の報道の後、2023331日及び510[5]に厚生労働省(現こども家庭庁)とエホバの証人との間で会合が行われた旨が公表された。その後、2023510日に教団は「お知らせ」と題する書面(国内のエホバの証人の全信者に向けた通知であり、教団信者らの各集会場において全信者を対象に読み上げられたもの。以下,「510日教団通知」という)を出し、その旨をこども家庭庁及び各報道機関にも報告し、これは上記会合を受けての教団側の対応・会合内容に対する教団の対応である旨を教団は公言した。

しかし、以下に述べる通り、510日教団通知の内容・発表の態様・発表後の行動等に鑑みると、かかる姿勢は、現時点ですら教団として宗教虐待Q&Aに記載された行為の長年の蓄積を頑として認めず特定の虐待行為を容認・推奨していることを強く推認させると当弁護団としては判断せざるを得ず、過去においては教団が同様の姿勢であったものと言わざるを得ない。

・5月10日教団通知内では、現在に至るまで信者らの間で虐待行為が行われていたか否かに言及する箇所は一切ない。
・5月10日教団通知公表後、過去における鞭の謝罪や責任者の調査・処分をおこなったという話はない。また、いまだに子どもへの輸血拒否の明確な推奨をしており、輸血拒否しない信者を「断絶」(破門)処分する見解の変更もない。
・そもそも宗教虐待Q&Aの信者への周知は実施されていない。
・教団は、政府からの要請への誠実な対応とは真逆としか判断しようのない、別の新たな指示を2023年8月に長老たちに発している。しかも、従前存在していた指示をわざわざこのタイミングで「改定」する方法でこれを行っている。

    ④ 教団の教えに従わないことに対する懲罰・威嚇等

    教団は、教団世界本部の最高指導者ら[6]が、イエス・キリストから任命されて、信者を導く立場にあるとしている。そのため、教団は、信者に対し、教団と教団世界本部に全幅の信頼を置き、教えに疑問をもってはならず、教団の教えは神が人間に求める内容であるとして、忠実にこれに従うことを強く促している。

    したがって、信者が、教団の指示(形式的に推奨の形態をとることが多いが、複雑かつ重層的に構築された要素を加味すると実質的に指示と判断するのが合理的である)に明示的に従わないことは、唯一神エホバやその絶対経路であるイエス・キリストへの反抗であり、場合によっては「背教」という最大の罪にあたり得ることになる。

    背教の罪にあたると教団が判断した場合、信者が悔い改めなければ、「排斥」又は「断絶」(いわゆる破門)処分となり、ほかの信者からの絶交(いわゆる「忌避[7]」。挨拶を交わしてもならず、冠婚葬祭にも呼ばれない強烈なものであり、家族親族からもこうした扱いを受ける事例が多数報告されている)が待つことになる。かかる懲罰の威嚇等(実際に破門され忌避されることだけではなく、破門や忌避への恐怖により、又は教団によるそれ以外の不利益取扱いを避けるために教団の教えに従うよう動機付けがなされたり、教団の教えへの批判が封じられるなどの様々な「威嚇」や「影響」が含まれる。)が背景にあることからは、教団が、個々の信者が宗教虐待Q&Aに規定された虐待行為をしたことについて「個人の責任」とするのは、責任転嫁にほかならないと判断されるべきである。

    (3) 本報告書の結論概要3 2世等の生活に対する長期的かつ深刻な影響

     ⅰ 2世等が抱える深刻な精神的問題

      回答の中には、エホバの証人の信仰生活により深刻な精神的問題を抱えるに至ったというものが多かった。たとえば、「孤独感・疎外感・自殺願望・又は自尊心の欠如などネガティブな感情を感じた」とする人は回答者の約75%、「PTSD、複雑性PTSD、うつ、又は(アルコール、薬物等の)依存症等の精神的疾患と診断を受けた」と回答した人は約29%であった(本件調査の回答結果の範囲内で言えば、日本国民全体の有病率の約9倍)[8]

     

    ⅱ 大学進学・就職・キャリア形成への否定的教えによる経済困窮/自己実現の困難性

    教団は、ごく近い将来(個々の信者が現に生存しているうち)にハルマゲドンでこの世界が終わることを首尾一貫教えている。この教えが、就職や大学進学の価値を否定し、信者に信仰生活のためにより多くの時間を費やすことを強く推奨することに密接不可分に結びついているものと観察される。また、教団の出版物にはかなり古い時点から、こうした考えを明確に宣言するものもある[9]

    2世等の中には進学や就職を制限されたり、それにより経済的な苦境に陥ることを訴える人が有意に存在するが、教団の教理がこうした事態を引き起こしていることが著しく強く懸念される。また、本調査結果では、教団内の立場が上がるほどに[10]、正規就職をせず、経済的な問題を抱え、健康保険・社会保険の支払の免除・猶予措置を利用したり、不払いとなっている実態も報告された。

     

    ⅲ 教団離脱の困難性と忌避による威嚇 

    76%の回答者が教団を離れるのが「困難だった」と回答した。その原因として、教団を離れることにより、家族関係の悪化を恐れる回答が最多だった。

    特に、教団は、教理を捨てて悔い改めないこと等を「断絶・排斥」(破門)処分の理由としており、破門処分を経た信者に対して、他の信者は挨拶を含めて連絡をしてはならず、関係を断つことを求めており、家族や親しい親族すらもその対象となるケースが非常に多い。また、教団は、家族間においても強い忌避行為を行う明確に奨励する情報が信者らに発信されている[11][12]。こうした教団の教理(いわゆる「忌避[13]」)及び忌避を奨励する明確なメッセージが教団離脱を困難とする原因であると観察される。

     

    ⅳ 忌避がもたらす深刻な家族関係破壊/これによる教団離脱への威嚇 

    本調査では、忌避により、日本国において現在も実際に家族関係を絶たれている人が有意に存在することが量的に確認された。

    「忌避」による「絶交」を事前告知することで、いわば家族を人質にして2世等が離脱する自由を事実上奪う実態が浮き彫りになったと言わざるを得ない。また、そうした家族関係の断絶の度合いは極めて深刻であることが観察される。

     

    ⅴ 忌避問題の出発点‐若年期におけるバプテスマ

    忌避につながるバプテスマ[14]を教団が十代前半で受けさせている実態が確認された[15]

    忌避処分の前提となるのはバプテスマであるところ、そのような結果を内在するバプテスマを受けるかどうかに関しては、成熟した判断能力が求められるのは当然のことである。ところが、2世等は10代前半等の若年層で受けることを奨励され[16]、実際に本調査ではバプテスマを受けた年齢は12歳以降急増していることが分かった。

    そして、自身がバプテスマを受けたことに関して「非常に悪い選択だった」「悪い選択だった」とした回答が大半だっただけでなく、バプテスマを受けたがゆえに家族関係を失うことを恐れて教団からの離脱が困難とする回答も大半を占めるなど、忌避という児童虐待や人権侵害の温床になり得ることが分かった。

    教団は児童虐待や人権侵害の危険性を表裏一体に内在する行為を促進し、実際、バプテスマを起点に引き起こされる児童虐待や人権侵害が生じてもそれに対する抑止的姿勢を示していないものと判断される。

    (4) 本報告書の結論概要4 児童虐待人権侵害防止に態勢改善の余地

    ⅰ 教団としての児童虐待防止にかかる態勢不備

    実際の具体的虐待行為(例えば鞭、輸血拒否カードの携帯、子どもの輸血拒否の決断、伝道の強制等)は、直接的には教団ではなく個々の信者がおこなうものである。

    もっとも、エホバの証人の教理そのものの中に虐待の端緒が内在していると評価せざるを得ないことや、信者あての様々な教団からのメッセージや指示、そして虐待行為の時間的長期性・地理的範囲の広範性・一貫した類型性等を考慮すると、「信者が独自に虐待行為を行っており、したがって教団は虐待行為に無関係である」との評価をなし得ないことは明白である。

    このことから、教団として、少なくとも今後において宗教虐待Q&Aに規定された児童虐待行為がエホバの証人内において発生することを可及的に防止するべく、宗教虐待Q&Aの信者への周知、虐待行為についての教団としての責任の検証と予防策の策定、被害にあった2世等への謝罪等が求められるべきところ、残念ながら、教団は、児童虐待防止にかかる態勢整備に向けた具体的行動を起こしていない。

    これを裏付けるように、教団は、信者に対しては宗教虐待Q&Aの存在すら言及しておらず、かつ、これまでに生じた問題は信者個人や信者家庭の問題としているし、児童虐待防止法6条が定める通告義務[17]についていえば、信者ら(これには長老や他の教団幹部が含まれる)が児童虐待にあたるとされる行為について児童相談所に通告をした事例の報告は本調査において1件も存在しなかった。

    教団として、信者に対し宗教虐待Q&Aの周知をせず、起きてきた問題は信者個人や信者家庭の問題としている点で、宗教虐待Q&Aが指摘する具体的類型の児童虐待防止につき組織としての態勢整備に向けた動きは観察されない。

     

    ⅱ 法律ないしその解釈・運用の改善余地(法規制根拠の不存在)

    エホバの証人内部での宗教虐待Q&Aに規定された児童虐待につき、その存在は量的に確認されたものの、児童虐待防止法が規定する「児童虐待」とは、保護者がその監護する児童に対して行う行為に限定されるため[18]、現在の法制度・法解釈、運用を前提とすると、第三者である教団がこうした行為を推進・黙認・隠ぺいないしは不作為による促進をする場合は、直ちに同法の児童虐待として違法とは言えないということになる。しかし、宗教団体と信者の関係性、特に両者間における精神面での実質的な強い支配と依存(或いは従属性)の存在を考慮すると、児童虐待について真に責任を問うべき対象は、信者である保護者ではなく、教団である。

    具体的には、エホバの証人の教理の中に虐待の端緒が表裏一体に内在しており、教団が、宗教虐待Q&Aに規定された児童虐待を行うことを教理上推奨または許容し、神が望んでおられるなどの言葉を使うことで、さらには忌避による圧力を行使することで、信者に対する精神面での強い影響力を行使し、またエホバの証人内部における強い同調圧力により信者の行動を規律することで、保護者である個々の信者が児童虐待を行う状況を設定していると解するのが適切である。

    教団世界本部(統治体)への忠誠を元に、硬軟織り交ぜた手段に基づき、信者が虐待行為を行うよう仕向けられているとすれば、一般社会は、信者である保護者が自律的な真の意思能力に基づき子どもに虐待行為を実行しているとはいえない可能性もあることを十分に意識し、その問題に取り組む必要があると考える。

    なお、この種の提言をする際には「信教の自由が脅かされる」との批判が発せられることがしばしばある。しかし、憲法は信者に「信教の自由」を保障するところ、「信教の自由」の中核的内容の1つとして「信仰を強制されない自由」があるのであって[19]、他者(特に、保護されるべき児童)の「信仰を強制されない自由」を侵害する形での「宗教活動を実践する自由」の行使は許されないということを強調する。ましてや、「信教の自由」の1つの側面を奇貨として同じ人権の別の側面を侵害し、宗教活動の美名のもとに児童への虐待を推奨、黙認、許容することなど到底許されるものではない。これは、「公共の福祉による人権の内在的制約」という憲法の基本概念にも合致する。

     

    ⅲ 児童虐待を超えた広く人権侵害への対応余地

    本調査の目的は、宗教虐待Q&Aに規定された児童虐待の有無を調査することにあるが、調査の過程において、成人である2世等へのいわゆる「忌避」や、「忌避」を回避するためにやむなく教団に帰属し続けるしかない者が存在することが量的に確認された。

    教団からの離脱が困難であること及びその背景は既に述べた通りであるが、エホバの証人における「忌避」という仕組みは、2世等の信教の自由(特に信仰を強制されない自由)を実質的に侵害しているものであり、かかる教理は、教団世界本部により主導されている。

    エホバの証人の忌避は人権を侵害する側面が非常に強いところ、教団は忌避制度の存在を公然と認めている一方、仮に私人間争訟として裁判をした場合には宗教上の処分は司法判断になじまないという理由で却下されるなどの事態が想定され、自身の決断とは関係なく児童の頃に関与した2世等が、成人した後に家族関係を断たれる場合でも法的な解決は事実上著しく困難ないしは不可能である。こうした問題にも社会として取り組む必要がある。

    ※参考に、宗教虐待Q&A記載の虐待行為と、教団に適用可能な法規の関係性を示す。

    宗教虐待Q&A

    示された虐待項目

    保護者による虐待行為の関連法規

    虐待行為に教団が関与した場合に、適用可能な関連法規

    関連法規

    宗教虐待Q&A

    該当箇所

    「ハルマゲドンで滅ぼされる」と繰り返し教える

    ・児童虐待防止法23
    (ネグレクト)
    ・児童虐待防止法24
    (心理的虐待)

    問3−1

    ない

    「世の人」との友人関係の制限

    ・児童虐待防止法23
    (ネグレクト)
    ・児童虐待防止法24
    (心理的虐待)

    問3−2

    ない

    動画、アニメ、漫画等の娯楽の制限

    ・児童虐待防止法24
    (心理的虐待)

    問3−3

    ない

    「証言」の強制

    ・児童虐待防止法24
    (心理的虐待)

    問3−4

    ない

     

    集会・大会への参加強制

    ・児童虐待防止法23
    (ネグレクト)

    ・児童虐待防止法24
    (心理的虐待)

    問2−3

    問3−1

    問4−7

    ない

    伝道への参加強制

    ・児童虐待防止法24

    (心理的虐待)

    ・「問35」は、宗教の布教活動に参加させるため脅迫又は暴行を用いた場合には刑法の「強要罪」に該当する可能性もあると留保付きで明記する。

    問2−3

    問3−1

    問3−5

    問4−7

     

     

     

    ない[1]

     

     

    大学進学に否定的指導

    ・児童虐待防止法23
    (ネグレクト)
    ・児童虐待防止法24号(心理的虐待)

    問4−3

    ない

    学校行事へ参加させないこと

    ・児童虐待防止法23号(ネグレクト)
    ・児童虐待防止法24号(心理的虐待)

    問4−6

    ない

    年齢に見合わない性的内容の学習

    ・児童虐待防止法22号(性的虐待)

    問5−1

    ない

    審理委員会で性的体験の告白

    ・児童虐待防止法22号(性的虐待)
    ・児童虐待防止法23号(ネグレクト)

    問5−2

    ない

    輸血拒否等

    ・児童虐待防止法23号(ネグレクト)
    ・刑法218条(保護責任者不保護罪等)

    問4−5

    個別事情により、理論上は保護責任者不保護罪の教唆を検討し得る。

    ・児童虐待防止法21号(身体的虐待)
    ・刑法208条(暴行)
    ・刑法204条(傷害)

    問2−1

    問2−2

    個別事情により、理論上は暴行又は傷害の教唆を検討し得る。

    [1] 但し、「宗教虐待Q&A問3-5 宗教団体等が又は宗教団体等による指示を受けた児童の保護者が宗教の布教活動について繰り返し児童を参加させる行為」につき「脅迫又は暴行を用いた場合には刑法の強要罪に該当する可能性もある」とし、他の条件が重なる場合には責任が発生し得ることを示唆する。

    ※宗教虐待QA「問1-2」は、「宗教団体の構成員、信者等の関係者等の第三者から指示されたり、唆されたりするなどして、保護者が児童虐待に該当する行為を行った場合はどのように対応すべきか。」との問いに、「(答) 児童虐待行為は、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、強制性交等罪、保護責任者遺棄罪等に当たり得るものであり、また、これらの犯罪を指示したり、唆したりする行為については これらの罪の共同正犯(刑法60条)、教唆犯(61条)、幇助犯(62条)が成立し得る。」と明記している点に留意が必要である。 

    但し、これは、保護者の行為が刑法上の犯罪に該当する行為であること、さらに当該犯罪の実行行為自体は親が行うことの2つが満たされる場合が条件となることを留保していることから、上記の表のまとめに至った。

    ※上記表では、ほとんどの項目で「教団」による虐待関与行為について、実務上責任を問う実効的な法源が存在しないこと、また仮にあっても刑法(しかも正犯性を認定することに困難があると考える。)に限られていることがわかる。

    本報告書では、宗教虐待Q&Aが示された後でも教団の行動が変化しないことを報告するが、教団に虐待防止義務を直接的に課す法規制がないことこそが、その原因であることを社会は直視する必要がある。

    ※保護者による児童への虐待行為について、保護者に民事不法行為責任を認めることは理論上可能であるが、児童は訴訟能力を有しておらず(民事訴訟法第31条)、保護者と児童という関係も考慮するとそもそも責任を問う手段の行使が現実的でない実情と解されるため、上記一覧表では触れていない。

    信者による児童への虐待行為について、教団が、被害児童に対して直接的に民事不法行為責任を負うかは検討の余地はあるが、上記で触れたとおり、児童は訴訟能力を有していないことに加えて(民事訴訟法第31条)、調査や立証方法、費用等に厳しい限界がある等、実際に責任追及するには相当のハードルがあるものと考える。

    (5) 本報告書の結論概要5 エホバの証人内の児童虐待に関する重要な視点

     すでに上述した点と重なるが、本報告書は、エホバの証人内に児童虐待が存在する/存在してきたことを結論付けるものであるところ、その結論を理解するためには、この宗教団体内における児童虐待/児童虐待に端を発する人権侵害の全体を把握する上で、この問題が複合的・重層的なものであるという視点が不可欠であると考える。

    そしてこの視点には、以下の2つの側面がある。

    ① 児童虐待行為自体の複合的構成

       本調査で明らかとなった各個別の児童虐待は、それぞれが他の児童虐待と連動しており、1つの児童虐待行為が他の児童虐待の原因となっていたり、他の児童虐待を行わせるための威嚇手段となっているという構造がみられるものと考える。

    これは逆に言えば、特定の1つの虐待行為をとって見た場合に、「なぜそれを保護者が拒絶しないのか」・「その行為を実行することを選択した親や拒絶しなかった子どもの自由意思による自己責任ではないか」との疑問が仮に提起され得るとしても、その特定の虐待行為とはまた別の虐待行為が存在するために、その別の虐待又は人権侵害行為が威嚇力となって当該特定の虐待行為を実行せざるを得ず、到底、「信者の自由な選択による自己責任」という命題に矮小化できない、という結論を導くものと考える。

    ② エホバの証人内での意思伝達のシステム

    本調査で明らかとなった別の複雑な点は、教団世界本部及び教団が用いる「教理の伝達・伝播のメカニズム」である。

    エホバの証人は教理を教えたり伝えたりする際に、一般人であっても誰でも入手できる自前の出版物を主に使用する。そして、近年は「JW.ORG」という公式ウェブサイトを全面的に使用しており、それらの出版物の多く(1970年以降のもの)は、信者以外の誰であってもアクセスできる情報となっている。

    しかしながら、本件調査には、複数の現役長老からの詳細な報告も寄せられ[21]、こうした詳細な報告の結果として、教団世界本部及び教団が用いる「教理の伝達・伝播のメカニズム」の幾つかが明らかとなった。

    すなわち、教団世界本部及び教団は、これらの公の出版物のほかに、①長老だけが持つことを許される書籍、②長老だけに宛てられた内部指示の書面、③長老だけがアクセスできるウェブサイト、④長老だけの特別の集まりとそこでの教えの指示、⑤文字化していないため記録には極めて残りにくく、それでいて信者への行動推奨としては強い効果を持つ、集会や大会における「口頭での講話」・「実演と呼ばれる寸劇調のデモンストレーション」・「個々の信者が集会または大会において演壇に上がって述べる経験談」等による教えの伝達、⑥同じく記録に残りにくく、それでいて行動推奨としては強い効果を持つ巡回監督や長老による各信者への口頭の指示、などの様々な情報伝達媒体・経路を通じて、「実質的な信者らへの指示」と評価し得る情報を伝達していることが明らかとなった。

    なお、これらの情報伝達媒体のうちの1つの例として、上記「①長老だけが持つ事を許される書籍」とは、エホバの証人内でいわゆる『長老の教科書』と呼ばれている『神の羊の群れを世話してください』という題名の書籍を指す。当該書籍の冒頭部分には「一般信者に向けたエホバの証人組織の指示がある旨」が明記されているほか、「その指示を正確に伝える旨」、「当該書籍の情報は長老だけの内密とされる旨」、「教団からの他の指示も存在するので組み合わせて指示を実行すべき旨」などが明記されている[22]

     エホバの証人の教えや指示の実践においては、こうした「教団自身がその存在を自認し、かつ、内密とする指示の存在」を含め、一般社会からは視認できない/極めてしにくい重層的仕組みが構築されているのであり、こうした重層的仕組みの存在を理解することは、個々の信者の行動への教団の関与を考える上で不可欠なものと考えられる。

    (6) 本報告書の結論概要6 当弁護団による教団への要求事項

    当弁護団は、本報告書の内容を踏まえて教団に以下の5点を求める。

     

    一、宗教虐待Q&Aをすべての信者に対し周知すること

     

    一、児童虐待防止法6条に基づく通告義務をすべての信者に対し周知すること

     

    一、宗教虐待Q&Aに規定された虐待行為を、信者が子どもに対して行うことを認めない旨を周知すること

     

    一、教団と利害関係のない第三者を入れた調査委員会を組織し、過去に行われた虐待行為についての実態及びその原因を調査し、虐待行為の防止態勢の構築に向けた措置を公表すること

     

    一、教団の信者に対する指導、指示、推奨に起因して、児童虐待被害に遭った2世等への謝罪をすること

     

    (7) 本報告書の結論概要7 当弁護団による社会へ訴え

    当弁護団は、広く日本社会一般に対して、以下の各点を希望する。

    ⅰ エホバの証人内において、過去数十年という長期にわたり、日本全国で、組織的としか評価のしようがない形で2世等の子どもたちが受けてきた扱いに関心を向けるとともに、具体的な事実と現在生じている影響に目を向け、耳を傾けていただきたい。そしてその関心を今後も持ち続けていただきたい。

     

    ⅱ 特に学校関係者や児童相談所、医師たちをはじめ、子どもにかかわる立場の皆様に、エホバの証人の2世等に対する虐待に関心を示していただきたい。

    実際に虐待行為があった場合の対応もさることながら、虐待行為が認知できない場合であっても、エホバの証人の信者家庭に注意を傾けていただき、どのような小さな助けであっても、ほんの一言の関心の言葉であっても、差し伸べていただきたい。

     

    ⅲ すでにある法律の運用・解釈のさらなる明確化、明るみとなった現実を踏まえての各種ガイドライン(特に輸血拒否に関するガイドライン等)の改良のたゆみない継続、法改正の検討、これらの前提となる公的機関・信頼できる機関による調査の実施など、将来に向けて長期的・恒久的な効果をもたらす施策の検討・実行を強くお願いしたい。

    出典

    [1] 毎日新聞202211月7日記事『親から体罰、希望していた受験もできず エホバの証人3世の訴え』は、教団広報が「体罰をしていた親がいたとすれば残念なことだ。教えを強制することもしていない」と回答したと報じている。

    [2] 毎日新聞2023年1月5日記事『エホバの証人、子どもへの「むち打ち」はなぜ? 教団広報に聞く』は、「エホバの証人日本支部の広報担当者は「教団として暴力を肯定することはしてこなかったが、1990年代には誤った解釈でむち打ちなどがされていたことは聞いている。教えを実行する選択はあくまで個人にあるが、2000年代に入ってからは正しく解釈できるよう、DVDなどにして教えを伝える努力を重ねている」と報じている。

    [3] 日本では実質的には1949年からエホバの証人による宣教活動が開始(戦時中にほぼ停止したものが再開)されたが、信者数が有意に増加し始めたのは1970年代以降であり、2世らが目立つのも1970年代以降である。

    [4] 『目ざめよ!1994522日号』の内容を多くの日本の報道が取り上げている。

    他に『目ざめよ!1979年8月8日号p.28-29 子供に体罰を与えるのは正しいことか』、

    目ざめよ!2013年3月号6頁「良い父親になるには」』、『王国宣教1992年9月号p.3-4「あなたの子供を血の誤用から保護する」』等

    [5] 『虐待容認せずと信者に周知 エホバの証人、国へ報告』共同通信2023511

    [6] 教団世界本部に存在する「統治体」と自称する数名から十数名の合議体であり、聖書中に存在する「イエス・キリストの忠実で思慮深い奴隷」という言葉は彼らを指すと教えており、イエスやエホバ神の教えを伝達する絶対の経路であるとみなされている。

    [7] 「自分を神の愛のうちに保ちなさい」207-209頁「排斥された人にどう対応すべきか」

    [8] 厚生労働省中央社会保険医療協議会総会資料参照。平成29年の有病率は419.3万人に対して平成29年時の人口は1.267億人で有病率は約3.3%。

    [9] 例えば『目ざめよ!196988日号p.15‐若い人々にはどんな将来があるか』は、「若い人々はまた、現在のこの事物の体制(注:一般社会のこと)の下で年配に達することは決してないという事実を直視しなければなりません。なぜなら聖書預言の成就という証拠はすべて、この腐敗した体制があと数年のうちに終わることを示しているからです。ゆえに、若い人々はこの体制の差し伸べるいかなる立身出世の道も決して全うすることができません」と述べたのち、大学教育に極めて否定的な意見を述べ、「建築、鉛管工事その他の実技は現在有用であるだけでなく、神の建てられる新秩序下(注:ハルマゲドン後の新しい世界のこと)の再建の仕事においてはさらに有用でしょう。」と述べている。

    [10]「立場の高さ」は、①当該立場に名称が付されて教団内で他の立場と明確に異なるものと意識されているか、②当該立場に教団活動に捧げる一定の時間の条件が設定されているか、③当該立場にある者だけが取得できる情報があるか、④当該立場にあるものが他の立場の選任・剝奪等の権限を有しているか、⑤教団内において各立場にある者が「より模範的である」「より権威がある」と他の信者に認識されているか等の、諸般の客観的事情を根拠に、当弁護団が合理的に判断した基準による。

    [11] エホバの証人公式ウェブサイト「JW.ORG」内のビデオ『エホバの裁きを忠節に支持する』には、排斥された若い娘からの電話ですら、信者である両親が無視して取らないシーンがドラマ形式で発信されており、信者らに対して「排斥された家族との接触を断つように」という強いメッセージが発信されている。

    [12] 『ものみの塔2013年6月号 エホバの懲らしめによって形作られる』には、排斥された信者の両親と実の兄弟たちが16年もの間、忌避を継続した実例を称賛する記事が掲載されている。

    [13] 「自分を神の愛のうちに保ちなさい」207-209頁「排斥された人にどう対応すべきか」

    [14]  正式な信者になることを表明する儀式で、原則として、エホバの証人の大会において衆人環視の中、身体の全身を水の中に浸す行為。基本的に忌避はこのバプテスマを受けたことがある者を対象とする。

    [15] バプテスマを受けるには、その申し入れをした信者に対して「バプテスマのための討議」と称して複数の長老が順番に教理を理解しているかの確認を慎重に行い、教団側がバプテスマの承認をするという仕組みがとられているため、「教団が受けさせている」という表現を使用した。

    [16] ものみの塔(研究用)2017年12月号 23頁1節

    [17] 児童虐待防止法第6条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

    [18] 児童虐待防止法第2条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ)について行う次に掲げる行為をいう。

    [19] 日本国憲法 第20条第2項「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない

    [20] 但し、「宗教虐待Q&A問3-5 宗教団体等が又は宗教団体等による指示を受けた児童の保護者が宗教の布教活動について繰り返し児童を参加させる行為」につき「脅迫又は暴行を用いた場合には刑法の強要罪に該当する可能性もある」とし、他の条件が重なる場合には責任が発生し得ることを示唆する。

    [21] これらの報告者が真実、現役の長老であるかという点については、公的機関の身分証明書の提示協力を受けることを含む、複数の方法により当弁護団において慎重を期して判断を行った。

    [22] 『長老の教科書‐神の羊の群れを世話してください 序文』の「1」には、「兄弟姉妹に神の指示えるのは重い責任です。みんなが「同じ考え方でしっかりと団結」できるよう,聖書に基づく神の指示をすぐに見つけられるようでなければなりません。この本は,そのためにあります」との記載、「2」には「長老としての務めのほとんどがこの本にまとめられていますが,必要に応じて,「組織」の本やからのやおらせや手紙などのからの指示してください。調整箇所にしっかり気を配り,最新の指示してください。」との記載、「3」には「書かれているのは内密の情報です」との記載、「4」には「聖書の諸原則とエホバのからえられる指示頼ってください」との記載がある(下線は当弁護団が付記したもの)。