エホバの証人の信仰生活と仕事・社会保障制度への負荷

本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

報告書の目次
・エホバの証人調査の概要
用語解説
排斥(忌避)問題に関する考察
鞭(ムチ)問題に関する考察
恐怖の刷り込みに関する考察
輸血拒否に関する事前考察
輸血拒否に関する考察
学校行事への参加制限に関する考察
交友や交際の制限に関する考察
信仰の告白を強制する行為に関する考察
娯楽の制限に関する考察
布教活動の強制に関する考察
大学などの高等教育に否定的な教えに関する考察
2世等のメンタルヘルス
2世等へのサポートの必要性について
信仰生活と仕事・社会保障制度への負荷
教団・信者の法令遵守について深刻な懸念
当弁護団からのメッセージ

14 エホバの証人の信仰生活と仕事・社会保障制度への負荷

1 エホバの証人の終末思想と生活

(1) エホバの証人のハルマゲドン信仰は極めて強固なものである。わかりやすく言えば 彼らは「数年のうちに現実にハルマゲドンが来る可能性がある」と本気で信じている。

そして、1870年代から始まるエホバの証人の歴史の初期の時期には1914年、1925年などの特定の年にハルマゲドンが来ることを予言しており、その後、近年では「1914年時点で事理弁識能力を有していた人たちが死に絶える前にハルマゲドンが来る」という、ある程度幅をもたもたせながらも確実なタイムリミットを示す予言を長期間教えたのちに、この教えて撤回している[1]

この宗教はこうした予言と撤回(修正)を何度も繰り返しながら、202311月現在では、「現存するある一定のポジションのエホバの証人信者が全員死に絶える前にハルマゲドンが来る」と教えている。

いずれにせよ、いつの時代であってもエホバの証人信者は、「自分が生きているこの時代に、生きたまま自分の目でハルマゲドンを見ることになる現実の可能性が極めて高い」との認識を有して生活するよう教えられ、実際に信者もそうした確信を有しているという顕著な特徴を持っている。

(2) こうした現実感を伴う確信的な終末思想は、当然のことながら、個々の信者の「生活設計」にダイレクトな影響を与え続けてきた。

「自分が生きているうちにこの世の終わりが来る」と確信するのであれば、高等教育を受けたり、一生涯大切にする職業を選択したり、老後の人生設計を考えなくなる傾向に大きく傾くのが自然なこととなる。また、「近い将来、確実に来るハルマゲドン」で生き延びられるように、一般社会における活動よりも宗教活動により多くの時間・精力を傾け、神に是認されて将来を生き延びることを目指すという姿勢になるのもまた、自然な結果と言える。

2 時間献金型の宗教と言えるのか

エホバの証人はある一定の極めて多額の寄付を強要する方法はとらないものの、信者に対して伝道や集会への参加などで長時間の宗教活動参加を長期間(多くは人の一生涯の大半)に渡り求める宗教であって、信者の中には時間要求を満たせないために心身を害してしまう者もいることが研究で報告されている[2]

この点につき、京都府立大学・横道誠准教授は、エホバの証人は「時間献金型の宗教」であると分析・指摘する[3]。そこで、本調査では信者が「どれだけの時間」を宗教活動に使ってきているのかの調査を行った。

時間献金型の宗教と言えるのか

設問

「集会・大会への出席やそれに伴う準備、布教活動、教団内の奉仕活動などの教団活動に、最大で月に何時間程度使っていましたか?
ベテル奉仕・建設奉仕・巡回監督・長老などの役職をご経験の方は、それに費やした時間も加算してお答えください。(一つお選びください)」

集計方法

有効回答者全員を対象とし、横軸を「教団活動に月何時間使っていたか」、縦軸をその人数で作成した。%の数字はそれぞれの回答人数を「有効回答者」578人で割った割合を示す。

結果と考察

エホバの証人においては、信者間で宗教活動に捧げる「時間カウント」についての意識が非常に鮮明である事実が明白となった。

3 生活に必要な収入は得られるのか

エホバの証人が多大な「時間」を費やす宗教である場合、一般的な生活に必要な収入は得られるのかを調査した。

生活に必要な収入は得られるのか

設問

集会、大会、伝道活動などで費やしたことで金銭的な報酬を得たことがありますか?(一つお選びください。かつて雑誌を有償で提供していた時期に奉仕者が得た金銭は上記の「報酬」には含みません。

集計方法

有効回答者全員を対象に作成した。

結果と考察

エホバの証人の活動により報酬が得られることは原則としてない、何らかの金銭交付があっても「報酬」とは到底評価し得ないほどに僅少なものである実態が明らかとなった。

4 エホバの証人の直面し得る経済的な問題

エホバの証人の直面し得る経済的な問題

設問

エホバの証人の活動に参加したことで経済的な問題を抱えたことがありますか?

集計方法

有効回答者全員を対象に作成した。

結果と考察

教団での地位が高いほど[4]「経済的な問題を抱えた」との回答が多い[5]

5 エホバの証人と年金・健康保険・社会保険の支払い状況 

エホバの証人と年金・健康保険・社会保険の支払い状況

設問

エホバの証人の活動(集会や伝道)に参加していた頃の、あなたの年金や健康保険などの社会保険費用の支払状況についてお教えください。当時の状況を説明するものとして、次の最も近いものをお選びください。

集計方法

有効回答者全員を対象に作成した。

結果と考察

教団での地位が高いほど「社会保険料の猶予・免除・不払い」が多い[6]

(注:表の下部記載の各立場の順序は、前頁の脚注の例による)。

6 エホバの証人の信仰生活と仕事・社会保障等との関係についての小括

(1) 回答者の多くが年金、健康保険、社会保険の猶予・免除・不払いを選択していることが量的に確認された。回答者の年齢層は勤労世代であり、働ける年齢であることは別頁に示す通りである。

エホバの証人は「自分たちが生きている間にこの世が滅び、その滅びは数年以内に来てもおかしくない」と教え、実際にそれを信じる原理主義的宗教であり、仮に、エホバの証人信者たちの多くが一般人に比較して社会保障の支払率が有意に低いという場合(本調査結果はこの仮定と矛盾しない)には、この事象とエホバの証人の原理主義的教理は無関係ではないことが想定される。

すなわち、エホバの証人の原理主義的教理の結果として、①働ける年齢(特に青年層)で働く体力・能力がある人達が、この宗教にさえ関わっていなければ選択していたであろう職業に就く機会を失わせるだけでなく、②その社会的なコストを他の国民に負担させる構造になっていないか、との問題提起は有意なものであると考える。

2)個人がその真の意思に基づく信仰生活を送ることはなんら問題がなく、清貧は純粋な宗教活動の帰結と言える側面もあろうが、教団が組織として児童または若者の学習・就業機会よりも信仰を優先させるような教えを何らかの形で強制し(又は信者である親がそのように強制する体制を教団が設定し)、その後長い年月を経て信者らが経済的に困窮し、結果として一般社会の側の経済負荷が増大するという事象が存在する場合には、信者の人権というテーマとは別に、「児童が宗教を不当に強制されることによりもたらされる社会全体の経済負担」という別の検討すべきテーマが生まれることとなり得る。

出典

[1] 何度も予言が外れる度に離反する信者がいたため、ハルマゲドンによる救済を目的とした教理から、エホバ神の主権の立証や組織への忠節を強調した教理に変容した、という宗教社会学的分析がある。「近現代日本とエホバの証人 」法蔵館、山口瑞穂、P63

[2] 「近現代日本とエホバの証人 」法蔵館、山口瑞穂、P189

[3] 「【元宗教2世の専門家が解説】「エホバの証人」ってどんな宗教?関西テレビNEWS

[4] 「教団内での地位」との表現について

表の下部記載の各立場は、①宗教活動に費やす時間、②信者内における当該立場に就く人の人数、③当該立場だけがアクセスできる情報量、④与えられた権限、⑤教団内における当該立場への好意的評価等についての多数回答者らからの生の説明、等の複数事情を総合考量し、当弁護団において、客観的・合理的にいって「右に進めば進むほど教団内での地位が高い」と考察した順で表記している。また、特別開拓者は数が非常に少なく教団から少額の金員給付(但し非常に僅少である)があるという点で特別な立場であるが、女性でも就けるポジションであること、援助奉仕者や長老は人数は多いものの男性しか就けないポジションであることなど様々な要素により上記②③④の基準によりこの順序での表記とした。

[5] 回答数がゼロの立場について

特別開拓者や、支部委員・地域監督(現在は廃止されている)・巡回監督等の地位については、そもそも母数が圧倒的に少ない事、教団内の地位が非常に高いことなどから、本調査への回答者が存在しなかったものと分析する

[6] 長老やベテル奉仕者などの回答数は多くないことから、この調査結果をもってエホバの証人全体の傾向を判断するなどの一般化は好ましくなく、なお慎重な評価が必要だろうと考えられる。また、本調査結果をもとにしたエホバの証人に対するヘイトや差別的態度はあってはならない。