恐怖の刷り込みに関する考察

本考察は、「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです。本報告書は2023年11月20日に公表されたものです。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

第4 ハルマゲドンを教えること、恐怖の刷り込みを行うこと

1 ハルマゲドンとは

ハルマゲドンとは、近い将来に起こる「エホバ(神)」と「サタン(悪魔)及びその配下にあるエホバの証人以外の全人類」との戦争のことである。エホバの証人は、ハルマゲドンの戦いでエホバ神が勝利し、その後到来する「地上の楽園」でエホバの証人だけが永遠に生きると教えている。

また、「ハルマゲドンでは、エホバ神が空から火を降らせるなど[1]の現実の物理的な攻撃を行ってエホバの証人以外の全人類を殺害し、エホバの証人だけが生き残る」と教えている。

確かにエホバの証人は、このハルマゲドンにより「エホバ神の正しさが全人類に証明されること」が最も重要なことであると強調し、実際に、その点に主眼を置いてはいるが、この教えの当然の論理的帰結は「エホバの証人として神に認められなければ近い将来、神に現実に殺される」という前提が表裏一体として存在し、そのため、「〜しなければハルマゲドンで滅ぼされる」「〜すると楽園に行けない」などという教えや声かけがあるということを、声を上げた2世等が証言している。

※上述の教えの理解はエホバの証人内においては「いわば常識中の常識」のレベルであり、かつ、数年以内におきてもおかしくない現実のものであるとの理解が完全に浸透している[2]点を理解することは重要と思われる。また、そうした理解の浸透が子どもにも見られることも重要なポイントである。

2 宗教虐待Q&Aの記述

出所:宗教虐待Q&A

3 ハルマゲドンについて教わった経験

(1) ハルマゲドンを教えられた経験の有無

ハルマゲドンを教えられた経験の有無

設問

あなたがエホバの証人の活動(集会など)に参加していた当時「〜しなければハルマゲドンで滅ぼされる」「〜しなければ楽園に行けない」と教わったことがありますか?

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人を対象に作成した。

結果と考察

①ほぼ全員がハルマゲドンについて教えられたと回答した。

②エホバの証人に関与すれば必ず教えられる中核中の中核事項なので、この数字にはなんら驚きはない。また、本項の冒頭記載のとおり、このハルマゲドン発生の高い蓋然性についての感覚は「現実のもの」としての感覚であり、数年以内に起こり得るもので、エホバの証人でない者は全て殺害されるという感覚であることにも留意すべきである。

 

(2) 教えられた年齢

教えられた年齢

設問

ハルマゲドンについて、何歳頃に教えられ始めましたか?

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがあると回答した人を対象とし、横軸を年齢、縦軸を人数で作成した。

結果と考察

①児童の頃からハルマゲドンが教えられたことが行われたことが量的に確認された。

②教えの多くは、「エホバに従わなければハルマゲドンで滅ぼされる」「滅ぼされたくないなら親に従順にしなければならない」「集会や伝道に行かないと滅ぼされる」という趣旨の内容である。

 

(3) ハルマゲドンを教えた人

ハルマゲドンを教えた人

設問

「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教えた人は誰ですか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがあると回答した人を対象とし、横軸を「教えた人」、縦軸をその人数で作成した。

教えられ始めた年齢を18歳未満と回答した人のみを対象とした(始まった年齢が18歳以上と回答した人はいなかった)。%の数字はそれぞれの回答人数を「「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがある」と回答した555人で割った割合を示す。

結果と考察

①保護者から教えられたことが量的に確認された。

②保護者からだけでなく、長老や巡回監督などの幹部信者から教えられたという回答も量的に確認された。
②は現行法解釈を前提とすると児童虐待と言えない点は大きな課題である。

 

(4) 教団が児童に対しハルマゲドンの画像等を見させる等させていたか

教団が児童に対しハルマゲドンの画像等を見させる等させていたか

設問

教団は児童(18歳未満)に対しても、集会や大会で、ハルマゲドンの言葉、絵、映像などを見せたり、読ませたり、聞いたりさせていましたか?(一つお選びください)。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがあると回答した人を対象に作成した。

結果と考察

「エホバに従わなければ滅ぼされるハルマゲドン」の具体的かつ衝撃的な視覚的描写について、児童であっても成人と同じものを見せられることが量的に確認された。

 

(5) ハルマゲドンを教団から教えられたか

ハルマゲドンを教団から教えられたか

設問

教団からハルマゲドンの教理を教わりましたか?
教わった場合、どのように教わりましたか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがあると回答した人を対象とし、横軸を「どのように教わったか」、縦軸をその人数で作成した。教えられ始めた年齢を18歳未満と回答した人のみを対象とした(始まった年齢が18歳以上と回答した人はいなかった)。

%の数字はそれぞれの回答人数を「「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがある」と回答した555人で割った割合を示す。

結果と考察

出版物、幹部信者による講演などで教わったことが量的に確認された。

※ただし、教団が教えることは現行法解釈を前提とすると児童虐待と言えない点は大きな課題である。

 

(6) ハルマゲドンを教えられることにより恐怖を感じたか

ハルマゲドンを教えられることにより恐怖を感じたか

設問

ハルマゲドンの教理を教えられることにより、あなたはどのように感じましたか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがあると回答した人を対象とし、横軸を「教えられることによりどのように感じたか」、縦軸をその人数で作成した。

教えられ始めた年齢を18歳未満と回答した人のみを対象とした(始まった年齢が18歳以上と回答した人はいなかった)。

%の数字はそれぞれの回答人数を「「ハルマゲドンで滅ぼされる」「楽園に行けない」と教わったことがある」と回答した555人で割った割合を示す。

結果と考察

①「滅ぼされると信じた」「ハルマゲドンが来ると信じていた」が回答の上位であり、宗教虐待Q&Aの構成要件である「恐怖の刷り込み」が行われたと強く推認できる。繰り返し述べてきたように「ハルマゲドンの滅び」を「現実のもの」として受け止めるエホバの証人教理の特徴に留意すべきである。

②このことが、エホバの証人からの離脱に対する強力な心理的障害・ハルマゲドンの到来を無視しての一般社会での活躍への意欲の喪失等につながるであろうことは容易に予想される。

③一方、「半信半疑」、「全く信じていない」という回答もあったが比較的少数だった。

 

(7) エホバの証人の集会は「ハルマゲドン」恐怖の伝達の場所であると言えるのか

エホバの証人の集会は「ハルマゲドン」恐怖の伝達の場所であると言えるのか

設問

集会で「エホバの証人にならなければハルマゲドンで滅ぼされる」ことを教えられましたか?(一つお選びください)。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満で集会又は伝道に行ったことがあると回答した人を対象に作成した。

結果と考察

「〜しなければハルマゲドンで滅ぼされる」などと教えて恐怖の刷り込みを行うことは宗教虐待Q&Aに示す児童虐待に当たると解されるところ、回答者のほとんどがハルマゲドンを集会で教えられたと回答し、エホバの証人の集会は児童虐待が行われる場所になりうることが量的に確認された。

 

(8) ハルマゲドンの教えを受けた経験に関する自由記述の回答例

設問「教団がハルマゲドンの教理を教えることに関して、ご存知のことをできる限り詳しくご記入ください。なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。

エホバに従わない人は滅ぼされる
母からは、親に従わないなら、サタンと一様に滅ぼされると言われ続けた

出版物での記事や挿絵など。集会でもハルマゲドンがまもなく来ることは度々聞いた。

阪神大震災や、911テロが起きた際に特にこの世の終わりを長老が話していた。

信じる信じないでなく、物心ついた時からこの世は私たちの世代のうちに滅びるものでした。死んだら無という考え方とともに、教団を離れていても、そういう枠組みは残ります。

子供には本を通して怖い挿し絵と内容で親に従順でなければ滅ぼされると脅しに近い形で教えられていた。

エホバの教えを守らなければ終わりの日に滅ぼされるのよと教えられ育てられました。

「ママはパパが死んじゃっても悲しくないの?」と聞いたら、「悲しいから、パパが死なないようにあなたたちがパパがエホバを信じるようにお話してね」と言われました。

集会でも大会でもそんな話ばかりだったと思います。

世界の全ての人にエホバの宗教が伝わった時にハルマゲドンは訪れる

その時信者のみが楽園で生きる、他の人は死ぬハルマゲドンについて理解できず、母に聞いた事が何度もあるので、母の認識になります。

宗教に入ってやめた人は死ぬ。

奉仕先で玄関先で断っただけの人も死ぬ。

その子供は直接教えを聞いてなければ、まだ決まってない。

信者とはバプテスマを受けた人の事を言うのか曖昧

啓示の書にあるハルマゲドンについて、他のいろいろな聖句を用いながら教えていました。

2世信者だったので、子供の頃は親に不従順であるとどうなるか、きちんと鞭を打たないとハルマゲドンで滅ぼされる(1世信者の母親とその子ども)といって言たことを覚えています。

今でも夢に見ることがあるのですが、空から赤い火の玉が降ってきて街を破壊している絵の中に自分がいる、箴言30:17にある「父親をあざ笑い,母親への従順を軽視する目,それは谷のワタリガラスにつつき出され,若いワシに食い尽くされる。」の聖句をもじって、親に不従順であるとハルマゲドンで、「ワタリガラスに目をつつき出される」と恐怖で縛られながら教えられていましたので、実際にワタリガラスに目をつつかれる夢を見ていることが今でもあります。

主に恐怖の対象だった書籍

・啓示の書その壮大な最高潮は近い!

 Webサイト(オンライン・ライブラリーでは挿絵が見れなくなっています。

・聖書物語

・聖書の教え

・論じる

・偉大な教え手

・ものみの塔誌の当時の研究記事

 

※結果と考察

エホバの証人の保護者が教団の提供する出版物等を用いて児童にハルマゲドン等について教える様子が観察できた。保護者が児童に教えるのは児童虐待に当たるものの、教団が提供する出版物が、それが児童にも使用させるものだったとしても、現行法では規制できないことには問題があると思われる。

4 ハルマゲドンによる恐怖についての小括

(1) 「〜しなければハルマゲドンで滅ぼされる」というハルマゲドンの教えはエホバの証人の中核的教理(常識レベルの共通認識)であるが、教団が児童にも同様にそれを教えていることが量的に確認された。

(2) エホバの証人の保護者による子どもへのハルマゲドンの教示は、「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと、恐怖の刷り込みを行うことそのものであり、児童虐待に該当する可能性が高い。

(3) 一方、教団が出版物や集会・大会・子どもへの対面等での直接の説諭などを通じて教えるという実態もまた確認されたものの、保護者以外の教団関係者による教えである限り、いかに「「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと、恐怖の刷り込みを行う」などしても、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、教団の行為が直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと解され、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。

出典

[1] 教団資料によるハルマゲドンの画像動画

[2] 最近の資料ではものみの塔(研究用)2023年6月号8頁