教団・信者の法令遵守について深刻な懸念

本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

報告書の目次
・エホバの証人調査の概要
用語解説
排斥(忌避)問題に関する考察
鞭(ムチ)問題に関する考察
恐怖の刷り込みに関する考察
輸血拒否に関する事前考察
輸血拒否に関する考察
学校行事への参加制限に関する考察
交友や交際の制限に関する考察
信仰の告白を強制する行為に関する考察
娯楽の制限に関する考察
布教活動の強制に関する考察
大学などの高等教育に否定的な教えに関する考察
2世等のメンタルヘルス
2世等へのサポートの必要性について
信仰生活と仕事・社会保障制度への負荷
教団・信者の法令遵守について深刻な懸念
当弁護団からのメッセージ

15 教団・信者の法令遵守について深刻な懸念

1 教団の「お知らせ」

繰り返しとなるが、2023年に行われた政府関係者と教団関係者の協議を受け、教団は、同年510日に、全信者にむけた「お知らせ」と題する書面(510日教団通知)を公表した。

5月10日教団通知に記載の内容にはこれまでの教理の変更・転換等を示唆する記載はなく、実質的に、現状通りの教理運用を続ける(ひいてはこれまでの教理や実際の信者間での教理の実践に問題があったことを何ら認めない)というものであった。

一方、510日教団通知内には「エホバの証人は法律を守る市民であり市民としての義務を果たす」との記述がある。さらに、この510日教団通知は政府関係者との協議に基づくものであることを教団自身が認めている(教団はわざわざ2023510日に、児童虐待QAを公表することなどの厚生労働省からの具体的要請を受けたこと、これに対して「喜んで協力する」と公言している)。

このような外部に対する教団のメッセージ発信は、宗教虐待Q&Aを信者に周知させ、その遵守を信者に求める姿勢であるとの合理的期待を社会にさせるものであるところ、かかるメッセージに対して「教団対応の実態」を把握すべきものと考え、当弁護団では教団のコンプライアンスへの姿勢について最新の状況を調査した。

2 当弁護団の調査実施事項

複数の現役信者に聴き取り調査を行い、その対象者には複数の現役の長老も含まれている。以下では、その聴き取り調査例の中でも最新かつ最も信頼性のある情報を有すると判断される「1人の現役の長老」からの聴き取り例を示す。

聴き取り対象者

エホバの証人の現役の長老

聴き取り日時・時間等 

2023年8月27日 

録音録画を伴った1時間45分の聞き取り

聴取者

弁護士2名、弁理士1名

聴き取り事項

・「お知らせ」に関する長老への教育

・「お知らせ」の周知に関する状況

・宗教虐待Q&A、児童虐待防止法の周知の状況

・児童虐待防止法6条の通知義務の遵守について

・児童虐待に繋がりかねない「S55」の取り扱い

・「S401」の取り扱い

・輸血拒否カード・身元証明書の提供元について

・輸血拒否カード・身元証明書の運用の状況

・その他、現役信者のただ中にいることについての思い

3 聴き取り調査結果

現役長老の証言の要点を当弁護団で整理すると以下の3点に集約される。

①6月に教団から信者向けに発出された「お知らせ」では「信者は法律を遵守すべきである」と趣旨のことが書かれているが、教団内で児童虐待防止法や宗教虐待Q&Aについては周知されていない。当然のことながら、児童虐待防止法第六条の児童相談所への通知義務など知らない。

宗教虐待Q&Aが出てから現在に至るまで、S55と呼ばれる教団内部文書、輸血拒否カードは撤回されておらず、現在も信者は教団が提供するものを使用している。また、教団は政府要請に「喜んで協力」などという趣旨の外部へのメッセージを発出しながら、2023年8月には、この要請の趣旨と真っ向から反するとしか判断しようのないS-401の改定を敢えて実行している。

宗教虐待Q&A、マスコミ報道やお知らせについて信者間で話題にすることはタブーであり、信者は誰も話さない。同現役長老の観察及び同人が個人的に知る他の長老たちの観察によれば、話せばタブーにふれることになり、自分が背教者とみなされるのを恐れているように見える。そのため、教団内での活動は何ら変わっていない。

 また、この長老は、現在の気持ちについて、以下のとおり書面で回答した。

「エホバの証人信者にとって教団の発する情報は神からの御言葉と同義です。法律以上の影響力や拘束力を持ちます。たとえ投獄されることになっても兵役拒否を貫くのは政治的中立を保つなどの教団の教えによるもので、ときに殉教をも厭わないのはこれを神からの命令と見做すためです。こうした信念は敬服に値するものですが、一歩間違えば他の宗教の原理主義過激派による自爆テロに代表されるような過激な暴走をする危険をはらんでいます。

多くの親の信者が、信仰の下で子をムチで叩き、輸血拒否を求め、忌避してきたのは、教団の教えがあってこそであり、その教えがなければ存在しなかったものであることは明らかであると感じます。親自身も葛藤を抱えながら、「これはエホバのご意志だ」と心を鬼にして教団の教えに従っていたのではないでしょうか。

教団の発表した510日付の「お知らせ」は、もちろん私も信者として目にしましたが「児童虐待を容認していません」とは書かれていますが、過去に推奨していたムチによる懲らしめ(体罰によるしつけ)を間違いだとは明確に認めていません。「輸血を受けるか…一人一人が自分で決める」とは書かれていますが、その直後には「輸血を受け入れることはしません」とあり、子どもが輸血を受け入れることを決して良しとはしません。親に対して「子供の保護や福祉に関わる最新の法律を知っておくようにする責任」があるとは書かれていますが、厚労省の宗教虐待Q&Aについては一切言及していません。

むしろ、教団はこうした公式見解を出すことで、対外的には適切な対応を取ったとアピールしつつ、対内的には問題の本質を示さずに完全にはぐらかすことで、信者がこれまでの教団の教えは間違っていなかったと解釈するよう誘導し、適切な情報にアクセスすることを阻害しているのではないかと強く懸念せざるを得ません。

信者個人が自分で決めるべきことであるなら、何が問題視されており、どういった対応が求められているのかということをしっかりと周知してはじめて、誘導されたものではないその人個人の決定と言えるのではないでしょうか。少なくとも信者の現場にそういう周知はありません。

過去の問題に向き合わず、現在も継続して行われている指導についても責任逃れに終始する教団のこれまでの姿勢は甚だ無責任で不誠実であると感じます。

これは2世等を含む元信者だけではなく、現役信者をも苦しめるものではないでしょうか。

子どもたちをはじめとする被害者をこれ以上生み出さないため、教団には問題に真摯に向き合い適切な対応を取って欲しい、それが叶わぬのであれば国が問題解決と被害者救済のために動いて頂きたいと切に願います。

また、私自身について言うならば、この組織の内部で見てきた矛盾や偽善のために、すでにエホバの証人の信仰は全くありません。しかしながら、今も現役信者である家族たちとの関係を断たれることを考えると、今すぐにはこの宗教を去ることはどうしてもできない状況ですし、戦後の活動再開から数えて過去70年以上ものエホバの証人の長い歴史の中で、初めて一般社会が、この宗教内であまりに長く明らかにされてこなかった深刻な問題の数々に関心を向け、光をあて始めてくださったのですから、あとほんのもう少しの間、この宗教の中にとどまり、内部の事情について皆さんが知って下さることにほんの少しでも貢献したいという気持ちで日々を過ごしています。精神的にはとてもつらい日々です。

個々のエホバの証人信者の方たちの中には、誠実であるが故、真面目であるが故にこそ、この宗教に長い間とらわれているという方々があまりに多くいます。今回のような、エホバの証人の実態についての正確な調査が今後も行われ続け、そうした誠実な人柄をもつ多くの信者の方たちが、この宗教の抱える問題や本質について、真剣に考えてくださるようになることを強く願っています。」

4 教団の法令遵守に対する姿勢についての小括

(1) 一連の虐待行為の疑いに関して行われた厚生労働省(現こども家庭庁)との会合の対応として、2023510日に教団が「お知らせ」を出し、同書面上は前向きな姿勢と読める表現が羅列されていたものの、教団活動が一切変わっていないことが分かった。

(2) 厚生労働省(現こども家庭庁)による「宗教虐待Q&A」や教団による「お知らせ」の発出後も、輸血拒否カードや「S-55」と呼ばれる内部文書などもそのまま運用されていることからは、教団組織は信者が児童虐待を行うことを少なくとも容認しており、見方によっては促進していることが推認できる。

 さらに、教団は政府要請に「喜んで協力」などという趣旨の外部へのメッセージを発出しながら、20238月には、この要請の趣旨と真っ向から反するとしか判断しようのない「S-401」の改定を敢えて実行している。

※S-401の改定については、本報告書の「第2 輸血拒否について」・「4 輸血拒否カードの所持についての調査結果」・「(7) 極めて深刻に懸念される教団の姿勢-「S401」において詳述している)。

(3) 教団は表面的には法令遵守を信者に求めるものの、教理そのものに虐待性が内在しており、その矛盾を是正しようという努力は一切見られない。また、教団は虐待性が表裏一体に内在する宗教行為を全面的に奨励しながら、その行動の結果を完全に「信者の自己責任」に転嫁しているように解釈し得る。

(4) 上記のように、510日教団通知に代表される教団の対応をみると、「児童虐待に関  連したコンプライアンス遵守」を期待できず、教団及び信者には、社会的に通常期待されるべき自浄作用による法令遵守は期待できないと思われる。今後もその懸念が打破される事情は見受けられない以上、教団をして法令遵守を求めるためのより強制力のある方法を検討するべきである。