本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。 報告書の目次 |
Contents
第6 交友や交際の制限
1 宗教虐待Q&Aの記述
※本報告書においては、友人関係等の一般的な他者との関係を「交友」・恋愛感情に基づく特定人との関係を「交際」と表記する。
2 交友及び交際に関するエホバの証人の考え方
(1) 交友関係
エホバの証人は、「悪い交わりは有益な習慣を損なう」(コリント第一15:33)の聖句等を理由に、信者ではない一般の人との交友関係には用心するべきであり、社会生活上必要不可欠な接触以外、交友・接触を持たなければ持たないほうが望ましいとする[1]。
(2) 交際関係
エホバの証人は、「主にある者とだけ結婚しなさい」(コリント第一7:39)の聖句等を理由に、信者は信者同士でのみ結婚することを非常に強く推奨し、非信者との結婚について非常に否定的である(交際についても同様である)。長老等の幹部が、「信者・非信者間」の結婚式のサポートをした場合ですら、その立場が剥奪される可能性がある[2]。
仮に信者同士であっても、交際自体にも強い制限がかかっており、「法的婚姻関係及びエホバの証人内での正式な結婚関係」外でなされる性的な行為は最も重い部類の罪の一つとみなされている(この罪には婚姻前の性交を含むが、性交以外の多くの性的行為も禁止されている)。1つの例として、デートについても手をつなぐなどを含め身体的接触は強くけん制されており[3]、2人だけのデートは避けるように(つまり付き添いを置くように)と推奨されている[4]。
3 宗教的理由による交友・交際制限の経験の有無
設問 |
交友関係(性別を問わず友人とのつきあい)、交際関係(恋愛感情や性愛を含んだ親密なつきあい)、結婚について、エホバの証人であることを理由に制限を受けた又は制限を受けたとお感じになったことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
交友や交際の制限を受けたのは93%、522人に上った。 |
4 交友・交際制限の開始年齢
設問 |
図中に示します。 |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限をされたことがあると回答した人を対象とし、横軸を年齢、縦軸を人数で作成した。 |
結果と考察 |
①多くがエホバの証人に関与してからすぐに制限を受け、成人した以降も制限が続くことが量的に確認された。 ②18歳や20歳などの節目で制限を終えるような回答もあった。 ③30歳を超えても制限があるというデータがあるのは、30歳を過ぎても現役信者だった回答者等が、交友や交際の制限を教団から受けたということを濃厚に示すものであり、児童虐待というよりは人権の制限の意味合いが近いものと思われる。 |
5 交友制限によりできなかったこと
設問 |
宗教上の理由による交友の制限等により、あなたができなかった事は何ですか?あてはまるものをすべてお選びください。 |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「制限によりできなかった事」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「交友・交際の制限が始まったのが18歳未満」と回答した515人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①電話や自宅訪問など、交友におけるごく一般的な事項の多くが制限されていることが量的に確認された。 ②宗教虐待Q&Aに示された「社会通念上一般的な交友」の範囲内での制限が存在すると判断すべきである。 |
6 交友制限の対象
設問 |
あなたが交友を制限されたのはどんな対象ですか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「交友を制限された対象」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「交友・交際の制限が始まったのが18歳未満」と回答した515人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①約85%が「エホバの証人以外」と回答した。 ②宗教虐待Q&Aに示された「社会通念上一般的な交友」の範囲内での制限が存在すると判断すべきである。 |
7 交際の制限の有無
設問 |
エホバの証人以外の人との交際(恋愛感情、性愛を含んだ親密なつきあい)や結婚を制限されたことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
①約80%が交際等を制限された(上記選択肢1)、又は交際等をしようとしなかった(上記選択肢2)と回答した。 ②制限されたことはない(上記選択肢3)との回答は5%とごく少数であった。 |
8 交際制限の具体的な態様
設問 |
交際や結婚を制限された方にお尋ねします。具体的に、どのような制限でしたか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられたのが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「どのような制限か」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「交友・交際の制限が始まったのが18歳未満」と回答した515人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①約72%、371人がエホバの証人ではない人との交際を禁じられたと回答。結婚の制限も半数以上に上る。 ②宗教虐待Q&Aに示された「社会通念上一般的な」」範囲内での制限が存在すると判断されるべきである。 ③同性との交際も禁止も見られた。 (そもそも同性との交際はエホバの証人内では禁忌されており、これが排斥事由になり得る旨を扱った報道がある[5])。 |
9 交友・交際制限相手の称呼
設問 |
あなたの交友または交際や結婚の制限の対象となった相手方のこと指すのに、あなたの保護者や教団関係者は特定の呼称(呼び名)を使っていましたか?使っていた場合、どのような呼称でしたか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「制限の対象の相手の呼称」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「交友・交際の制限が始まったのが18歳未満」と回答した515人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①約94%がエホバの証人以外の人を「世の人」と呼び区別することが量的に確認された。 ②圧倒的大多数が共通の称呼で呼んでいることから、個人や個々の家庭の問題ではなく教団の指導があったことが強く推認できることに加え、宗教虐待Q&Aに示された構成要件の一つに該当する。 ③その他、「サタン」「排斥者」「背教者」などの称呼も見られた。 |
10 交友・交際の制限理由
設問 |
どのような理由で、エホバの証人以外の人との交友、交際や結婚の制限を受けたと理解されていますか。あてはまるものをすべてお選びください。 |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で交友・交際の制限が始まったのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「どのような理由で制限を受けたと理解しているか」、 縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「交友・交際の制限が始まったのが18歳未満」と回答した515人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①保護者からの働きかけ(上記選択肢5)により交友・交際の制限を受けたことが量的に確認された。宗教虐待Q&Aの構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。 ②保護者の働きかけ以外では、出版物での記載(上記選択肢1)、長老・巡回監督等の幹部信者の働きかけ(上記選択肢2)、大会や集会における講演での指示・暗示(上記選択肢3)、周囲の信者の働きかけなど(上記選択肢4)、教団の関与も量的に確認された。教団の関与は現行法のもとでは児童虐待とは言えず、何らかの対策が必要ではないか。 |
11 交友・交際制限に関する自由記述の回答例
設問「上記で質問した様々な交友や交際の制限について、 5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どういった制約をおこなったか)を要素としてできるだけ詳しくご記入ください。もし、交友や交際の制限について、長老や幹部信者から指導や推奨があったケースに遭遇されたことがある場合には、その点も併せてご記入ください。なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。
・「悪い交わり(=世との交友)は有益な習慣を損なう」という考えは集会でも1ヶ月に複数回程度取り上げられるほど頻繁に扱われる話題で、学校の友達との付き合いは大変やり辛かった(親や会衆の人に見つからないように隠れて遊んでいた) ・異性との交際については、そもそもエホバの証人同士の交際であっても結婚を前提とし、二人きりにならないようにデートの際には必ず第三者に付き添ってもらう条件でないと交際はできない(破ると不道徳として扱われ、審理委員会に諮られる≒排斥となる)。このような指導は年頃の兄弟姉妹には長老から個人的 |
・小学生の頃自宅で〇〇ちゃんは創価学会の人間だから遊んではいけないと親に言われた。 ・小学生の頃、場所は覚えていないが、友達からクリスマス会、誕生会などに誘われたら行ってはいけないと親から言われた。(誕生日を祝うことは崇拝にあたるから)。 ・会衆の長老から近くの会衆の若い人たちで行っているレクリエーション(体育館で行うバスケやバトミントンをする会)。に参加するよう推奨された |
・親から、また会衆のプログラムで、課外活動、部活動について、宗教活動の時間を減らさないよう指示がありました。 ・集会のある日曜日には、交友関係や交際関係に時間を使わないよう、親から指導を受けました。 ・交際について、信者からの監視があり、家族、長老への内通を受けました。 ・交際について、2名の長老から第二会場に呼び出しを受け、別れるよう指導を受けました。 |
「楽園」の本と「知識」の本のレクチャーを受け,「若い人は尋ねる」の本,「霊感」の本等を自主的に個人研究していましたので,誰からの指示とはなしに,自粛・自制をしていました。 |
「世の人と関わるな」との内容は、出版物「目覚めよ!」に多く、しかも頻回に記載があったと記憶しています。内容は微妙に異なり、友人関係、恋人関係を示唆するものから「ロックは良くない」「ドラマはよくない」といった世の者全般を指すものまで様々でした。 |
■交友について 友人との遊びは全面的に禁止されていたわけではないが、必要以上に頻繁に遊びに行くことは良しとはされていなかった。そのため、例えば友達と遠出する(例:ディズニーランドに行く)。といったことは認められるはずがないため、親に相談することもなく諦めていた。 小学校の際のスポーツクラブ(例:・・FCのようなサッカークラブ)や、中学高校の部活も良しとされていなかったため、「入りたい」ということも親には言わなかった。もしそんなことを言えばひどく叱られるか鞭されていたと思う。スポーツクラブや部活に入れないということは、こどもの夢にも影響を与えることで、私は小さい頃に将来の夢を聞かれても「サッカー選手」と正直に答えることができなかった。エホバの証人ではどうせなれないと分かっていたし、そう答えると親にられると思っていた。これはスポーツが大好きであった私にとっては非常に大きなことであった。 部活については、多くの友人たちから誘われたが断った。しかし宗教が理由で部活ができないというのは非常に説明が難しいので、「部活は面倒くさいんだ」とごまかしていた。ちなみに私は友人への証言はかなりしている方で、例えば武道に参加しないときは「宗教上の理由」と説明していたが、部活の禁止は理解してもらうのが難しいと判断していた。 ■交際 これは言わずもがなで全面的に禁止。エホバの証人内の交際も、結婚を前提とした交際以外は禁止であった。したがって、学生時代にエホバの証人内で交際するのも禁止。わたしはエホバの証人内で女友達が多く、集会後によく話していたが、それを良く思っていない信者がいると聞いたことがある。なおエホバの証人内での交際も、婚前の性交渉があってはいけないので、第三者立会いの下デートすることが推奨されていた。 |
1◯歳頃、性の不道徳で審理委員会があり、長老達から性行為はどちらから誘ったか、キスはしたか、どんなキスだったか、性器を舐めたか、挿入があったか避妊はしたかなど、人に話したくないことを沢山聞かれた。 非信者の男性と交際中に何度も周回後呼び出された。サタンかエホバか選びなさいとか、バアル崇拝[6]と同じくエホバにとって忌むべきことだとか、バアルと結婚するのかと言われた。結婚後は交わりへの参加や、コメントを制限された。 |
エホバの証人以外の人は「世の人」「世の子」と呼んでいた。 世の子と遊ぶなと 常々 言われていた。 |
本人の特定を避けるため「◯」の加工を当弁護団で行っています。
12 宗教的理由による交友・交際制限についての小括
(1) 児童が教団の指導に基づいて交友の制限を受けていたことが量的に確認された。
そしてその制限は、ごく一般的かつ基本的な交友関係、かつ、社会性を構築するうえで子どもの健全な成長に重要な人間関係を対象とするものが多い。
(2) 交友・交際対象相手を「世の人」「サタン」と特定称呼で呼び区分けする実態や、交友・交際制限は成人になっても継続していることが確認された。制限を受けて、多くの2世信者等は自ら交際(信者以外との結婚)をしようとしない選択をしていることも確認された。
これにより、エホバの証人家庭で育つ2世等が幼少期より一般社会から孤立させられるとともにエホバの証人社会だけを社会基盤とする状況に置かれ、信者以外の友人や交際相手を持つことができないまま成長することによる人格形成・社会性の形成への深刻な影響や、他に社会基盤を持たないためにたとえ望んでいたとしても教団からの離脱が困難になるなど、成人後もその影響を強く受け続ける事態が深く懸念される。
(3) 「交際相手・結婚相手が信者に限定される事態」は、2世等が成人した後に配偶者とその家族も信者となる可能性が高いことにつながり、これにより2世等がエホバの証人を離脱することがますます困難となり、エホバの証人社会だけが社会基盤という状況が成人後も極めて長期間に及ぶという事態を引き起こし得る。
実際に、現役信者の2世等の中には「自分はもはや全く教理を信じていないが配偶者が教理を信じているので離脱できない」と表明する人が多数見受けられた。
(4) 信者である保護者による交友・交際の制限は宗教虐待Q&Aに示された構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。
一方、教団が出版物や大会・講演などを通じて交友・交際の制限を強く推奨し教えるという実態が確認されたものの、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、教団の行為が直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと思われ、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。
出典
[1]『エホバの望まれることを行う組織 p.137-138, 13章「全てのことを神の栄光のためにしましょう」23節』「あなたが若いクリスチャンで学校に通っているなら,エホバの証人ではない若い人たちと不必要な交友を持たないように気を付けてください。」
『ものみの塔1988年11月15日号 p.15–20 神を崇拝するよう他の人を援助する』
『王国宣教 1989年6月 p.1–2 神権的な交わりを楽しむ』
『若い人は尋ねる質問 実際に役立つ答え(第2巻)p.143以降』等。
[2] 『神の羊の群れを世話してください 2023年 p. 39 8章「長老や援助奉仕者の資格の再検討が必要な状況」』には以下の記載がある。
「バプテスマを受けたクリスチャンとバプテスマを受けていない人との結婚をサポートした場合:長老や援助奉仕者は, エホバの基準に対する揺るぎない思いを持っていなければなりません。 その基準には 「主に従う人とだけ」つまり献身してバプテスマを受けた人とだけ結婚するようにという聖書の命令も含まれます。この命令は,全てのクリスチャンに当てはまります。 不活発な人も例外ではありません。2人の交際や結婚式や披露宴へのサポートや,そうした場への出席や参加などによって,その結婚を奨励したり黙認したりするなら,長老や援助奉仕者としての資格に疑問が生じます。 兄弟自身が関与しなかったとしても,妻や同居する家族がそうしたことをするのを許したなら,やはり資格の再検討が必要です。 長老や援助奉仕者がそうした点で判断を誤った結果,他の人たちが大きな疑問を感じるようになったのであれば,聖書から見てその兄弟に奉仕を続ける資格はないかもしれません。」
[3] 『目ざめよ! 2001年12月22号p.26-27, 若い人は尋ねる…早すぎるデート ― どんな害があるのだろう‐デートの危険』「今日の世の中では,デートが性関係のきっかけとなることが少なくありません。それはちょっとしたことから,ただ手をつなぐことから始まり,次に,さっと抱きしめたり,ほおにキスしたりするようになるかもしれません。これは,互いに真剣な誓いを立ててそうした愛情を表現することにした若い成人男女の場合とは全く異なります。一方,結婚するには若すぎる二人がそうしたことをするなら,性的欲望を不必要にかき立てることになるだけです。“愛情”表現が,だんだんと不適切な,あるいは汚れたものになってしまい,何らかの形の淫行に至ることさえあります」等。
[4] 『ものみの塔2001年5月15日号 結婚相手を選ぶときの神からの導き』
『ものみの塔2015年3月号 「主にある者とだけ」結婚する ― 今でも現実的?』
『あなたの若い時代,それから最善のものを得る 第19章 デートと求愛』等。
[5] ※「悔い改めますか」同性と交際、高3で追放 家族も故郷も失った日、毎日新聞2023年1月3日
[6] 「バアル崇拝」とは、古代カナンにおいて崇拝された異教の神・バアルへの崇拝行為を指し、旧約聖書時代に古代イスラエルにおいて最も禁忌された行為の1つである。現代のエホバの証人にとっては、それにとどまらないエホバ神以外の異教の神への崇拝行為や、その他の物質主義、性的な行為への傾倒など広い意味で教団が禁止する行為を行うことの悪質さを特に強調する意味で用いられることがある(『ものみの塔1999年4月1日号p.28~31 「バアル崇拝 ― イスラエル人の心を守る闘い」』)。なお、エホバの証人は異教への排他的思想が極めて強く、エホバの証人以外の宗教は嘘・偽り・エホバ神が最も忌み嫌う行為であるとして極めて否定的見方を信者に教えている。他の宗教の総称として「大いなるバビロン」という表現も使われる。