エホバの証人の娯楽等の制限に関する考察

本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。

報告書の目次
・エホバの証人調査の概要
用語解説
排斥(忌避)問題に関する考察
鞭(ムチ)問題に関する考察
恐怖の刷り込みに関する考察
輸血拒否に関する事前考察
輸血拒否に関する考察
学校行事への参加制限に関する考察
交友や交際の制限に関する考察
信仰の告白を強制する行為に関する考察
娯楽の制限に関する考察
布教活動の強制に関する考察
大学などの高等教育に否定的な教えに関する考察
2世等のメンタルヘルス
2世等へのサポートの必要性について
信仰生活と仕事・社会保障制度への負荷
教団・信者の法令遵守について深刻な懸念
当弁護団からのメッセージ

第8 娯楽等の制限

1 エホバの証人における娯楽等についての制限

エホバの証人は、一般社会の娯楽について、「世の音楽,映画,ビデオ,テレビなどは・・・悪霊たちの堕落した教えを広めている」[1]、「この世の下劣な道徳基準を反映している」[2]などとして、映画・テレビ・ビデオゲーム・漫画・児童書など、注意するよう述べている[3]

すなわち、一般社会において広く受け入れられ有害性もないと判断されるような娯楽、「それを知らない・みたことがないこと自体が信じられない」と周囲に言われるようなテレビ番組やゲーム、それらのキャラクターグッズなどについて、子どもが接触することを過酷なほどに厳しく禁じるという現象がエホバの証人社会内に存在してきている。

以下の本件調査結果報告は、その具体的現状を示すものである。

2 宗教虐待Q&Aの記述

3 娯楽の制限の有無

娯楽の制限の有無

設問

エホバの証人としてふさわしくないという理由で、アニメ、漫画、ゲームといった 娯楽を禁止されたことがありますか?

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人を対象に作成した。

結果と考察

95%、531人が娯楽等を禁止されたと回答した。

4 娯楽制限を受けた年齢

娯楽制限を受けた年齢

設問

図中に示す。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で娯楽の制限をうけたことがあると回答した人を対象とし、横軸を年齢、縦軸を人数で作成した。

結果と考察

多くが児童の時から禁止され、成人になっても禁止され続けることが量的に確認された。

※成人になってからは、親はもとより仲間信者・教団幹部からの強い圧力により一般的娯楽を利用し得ない状況に置かれているケースが多いと考えられる。

5 制限対象の娯楽

制限対象の娯楽

設問

何を制限されていましたか?あてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で娯楽の制限をうけ始めたのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「何を制限されていたか」、縦軸をその人数で作成した。

%の数字はそれぞれの回答人数を「娯楽の制限をうけ始めたのが18歳未満」と回答した531人で割った割合を示す。

結果と考察

マンガ、アニメ、映画、ゲーム、その他の娯楽などほとんどのものが制限の対象とされていたことが量的に確認された。

6 制限対象の娯楽のタイトル

設問「制限されていたマンガやアニメ等のタイトルを教えて下さい。複数あれば、あるだけ教えて下さい。」 に寄せられた回答に含まれるアニメ等のタイトルを当弁護団で抽出した結果を示します。

制限対象の娯楽のタイトル

結果と考察

上記各タイトルの大部分は、宗教虐待Q&Aに示された「社会通念に照らして児童の年齢相応だと認められる娯楽等」に該当することが明白と思われる。

7 娯楽の制限をされた理由

娯楽の制限をされた理由

設問

上記の制限されていた娯楽等について、あなたが制限を受けた理由として考える理由について、下記にあてはまるものをすべてお選びください。

集計方法

エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で娯楽の制限をうけ始めたのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「制限を受けた理由」、縦軸をその人数で作成した。

%の数字はそれぞれの回答人数を「娯楽の制限をうけ始めたのが18歳未満」と回答した531人で割った割合を示す。

結果と考察

①保護者の働きかけにより娯楽を制限されたことが量的に確認された。宗教虐待Q&Aの構成要件を満たし児童虐待に該当する可能性が高い。

②保護者の働きかけ以外では、(1)出版物での記載、(2)長老・巡回監督等の幹部信者の働きかけ、(3)大会や集会における講演での指示・暗示、(4)周囲の信者の働きかけなど、教団の関与も量的に確認された。

③本項目は、保護者の働きかけを示す表中の選択肢5と、主に組織からの働きかけを示す選択肢同1〜4のギャップが大きい。この原因は、「一般社会(サタンの世)の娯楽を避けるべきである」との教団の教え・指示の大枠が維持されながら、その具体的制限対象につき、保護者の好みや、周囲の信者からの同調圧力にどこまで応じるか・どこまで厳しく制限することにより「より熱心な信仰の実践者」と評価されたいかなどに基づく親側の恣意的な判断による制限がなされていたことを示しているとも思われる。

④娯楽禁止に背いたので鞭をされた・娯楽禁止のために鞭で威嚇されたとの証言は多く、他の多くの項目で指摘のとおり1つの児童虐待が他の児童虐待と連動する事実が浮き彫りになっているものと判断される。

自由記述欄の具体的な回答はこの点を裏付けている。

8 娯楽の制限の経験に関する自由記述の回答例

設問「娯楽等の制限に関して、 5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どういった制限を課したか(制限を受けたか)を要素としてできるだけ詳しくご記入ください。もし、娯楽等の制約について、長老や幹部信者から指導や推奨があったケースに遭遇されたことがある場合には、その点も併せてご記入ください。 

なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。

◯歳か◯歳頃、自宅で、信者である母親が、私に対して、アニマックスでドラゴンボールやポケットモンスターを見ちゃいけない(覚えている。タイトルはその2)、カードキャプターさくらのおもちゃ(魔法の杖)は、サタンのものだからエホバが喜ばれない、ハルマゲドンでこんこんと言われ、自分でお気に入りのおもちゃを捨てさせられました。

中学◯年生の時、王国会館で、長老2人が、私に対して、バプテスマを受けていない伝道者になる時、マクロスシリーズなどのオタクコンテンツはふさわしくないので、伝道者になりたいなら、それらを捨て去るように指導を受けました。

199◯年頃、◯◯県◯◯市◯◯にあった王国会館で、長老から暴力を描写するようなアニメはよくない影響をうけるから制限推奨の話があった。

産まれた時から親や信者からほぼ全て戦いや魔術を使ったアニメを見たら親から鞭を打たれていた。90後半頃、組織からの出版物に日本では毎回殺人が起こるアニメがあり悪影響を及ぼすとの内容が書かれていて、信者の親同士がコナンを見せないよう話していた。

高校に入って、バイトも始めて、自分で恋愛ものの漫画を買いました。

ですが、ふさわしくないと捨てられ、その後に巡回監督と長老から牧羊訪問を2回受けました。

高校生になり、映画鑑賞が好きでしたが、やはり戦争ものなどはダメです。具体的に映画名を指してふさわしくないと指導する長老もいました。

私は高校生の時、どうしてもトップガンが観たく、こっそり一人で観に行ったことがあります。当然、禁止リストに入っていました。

あとは、つまらないことですが、当時はやっている服装、髪型はふさわしくないとされ、当時もみあげを斜めにカットするテクノカットもふさわしくないとされ、長老に直接指導されている兄弟もいました。

司会者や長老から指示されました。

「テレビがない」家庭が模範的とされ、よく大会などで「テレビを捨てました」などの体験談が語られた。

反対者の父を説得した、などが美談としてもてはやされた。

特定の番組を禁止されるというより、ほとんどのものが禁止されていた。

うちは反対者の父がテレビを観ていたが、暴力的なアクション映画、お色気シーンのあるお笑い番組などは母が吐き捨てるように「汚らしい、この世的だ、いやらしい、あんなものを観ているから頭がおかしくなるんだ」のような極端なことを言っていた。

テレビを観ただけでよく鞭をされていた。

自宅は信仰を始めて間もなくテレビを撤去しました。集会においては「サタンの世の娯楽を楽しむ必要は無い」と繰り返し教えられ、子供時代の娯楽は大会で演じられる聖書劇のカセットテープだけでした。

本人の特定を避けるため、「◯」の加工を当弁護団で行っています。

9 娯楽等の制限についての小括

(1) 2世等が一般的な娯楽の制限を受けていることが量的に確認された。

しかも、対象となる娯楽は健全かつわが国で広く一般的で人気のあるものが多く、これらを制限されることは①エホバの証人教理に限定される価値観、ひいてはバランスを欠いた特定の偏向的な価値観の刷り込み、②学校の同級生との会話における大きな弊害等を引き起こし、ひいては、③児童が一般社会から孤立し、エホバの証人社会だけが社会基盤となってゆく事態につながることが容易に想定されると考える。

 また、娯楽等の禁止については鞭による威嚇・過酷な制裁を伴う実態が報告され、エホバの証人社会内で1つの児童虐待が他の児童虐待と連鎖する構図が明らかであると解される。

(2) エホバの証人の保護者による娯楽の制限は宗教虐待Q&Aに示された構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。

一方、教団が出版物や集会・大会などを通じて娯楽の危険性を殊更に強調し、特定の世間一般で子どもたちが楽しむことが許される娯楽を楽しまないよう強く推奨し教えるという実態が確認されたものの、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、教団の行為が直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと解され、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。

(3) 本報告書の他の項目とは異なり、教団の働きかけよりも「保護者からの働きかけ」の回答が多い。これは、「一般社会(サタンの支配するこの世)から離れているように」という教団の大枠の教えが強固な土台となったうえで、各家庭の信者である親個人の好み・その時の感情や恣意的な判断・他の信者らに「より模範的な信者」とみなされたいという同調圧力や承認欲求が色濃く反映された結果である可能性がある。

実際、教理を前提としたとしても、なぜエホバの証人において禁止されるのか理解に苦しむ娯楽(暴力性や性描写とは無縁の漫画など)が禁止されていた例が多数報告されており、子どもに対して不合理であっても、より厳しい制約を課せば課すほど、親である信者が「熱心である」と称賛される、或いは、「自分は神に対してより忠節である」という自己肯定感を得るという、「エホバの証人の団体としての体質」を反映しているのではないかとの考察が成立し得る。

(4) 信者である保護者による虐待は宗教虐待Q&Aの射程範囲であり、エホバの証人の信者である保護者に対する周知徹底が望まれる。

出典

[1] 『ものみの塔1994515日号p.1718

[2] 『ものみの塔200511日号p.25

[3] 『ものみの塔2010415日号p.22