本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。 報告書の目次 |
Contents
第5 学校行事への参加制限
1 宗教虐待Q&Aの記述
2 教団が「神に禁じられている」と教える行事等
(1) エホバの証人は、わが国で伝統的または一般的に祝われる様々な行事や祝祭日について、異教の宗教に由来する、聖書の教えに反する、偶像崇拝にあたる等の様々な理由により、それを祝うことを拒絶する。特に日本の一般的な学校で行われる行事のうち、教団が信者に対し禁じている行事の幾つかの例は以下のとおりである。
(※なお、以下の行事に限られない点には留意が必要である)。
① 誕生日
聖書中に出てくる誕生日の記載は、いずれも異教徒のものであること、一個人を過度に重要視する傾向にあるからとの理由で祝うことを禁止している[1]。
② クリスマス
12月25日はイエス・キリストの誕生日ではないこと、もともと異教の祝日に由来することを理由に祝うことを禁止している[2]。
③ 正月
もともと異教の祝日に由来することを理由に祝うことを禁止している[3]。
エホバの証人は「あけましておめでとう」という挨拶を述べないよう教えられている。
④ 節分
もともと異教の崇拝に由来することを理由に祝うことを禁止している[4]。
⑤ バレンタインデー
もともと異教の祝日に由来することを理由に祝うことを禁止している[5]。
⑥ 端午の節句
邪気を払うという意味での祝いであり、もともと異教の崇拝に由来することを理由に祝うことを禁止している[6]。
⑦ 母の日
もともと異教の崇拝に由来することを理由に祝うことを禁止している[7]。
⑧ 七夕
もともと異教の崇拝に由来することを理由に祝うことを禁止している[8]。
⑨ ひな祭り
雛人形はもともと霊力のある呪具であり、祭りは崇拝行為であることから、異教の崇拝に由来するため祝うことを禁止している[9]。
⑩ 武道
聖書中に「もはや戦いのことを学ばない」と記載してあること、武道をおこなうことで暴力的な傾向をはぐくむことになるという理由で、武道を行うことを禁止している。これには、学校教育の過程でおこなわれる柔道や剣道なども含まれる[10]。
⑪ 国家斉唱・国旗敬礼
国旗などの旗に対して身をかがめたり敬礼したりすることや、国歌を歌うことは,神ではなく国家などの組織やその指導者に救いを帰する宗教的行為であるとして、国歌斉唱や国旗敬礼をすることを禁じる[11]。
⑫ 校歌斉唱
国家斉唱を禁じると同じ理由で、校歌は神ではなく学校に崇拝行為をするものであるとして、禁止する[12]。
⑬ 運動会における一部種目(騎馬戦、応援合戦、宗教的な色彩を持つ踊りなど)
騎馬戦は、戦いに由来するものであること、応援合戦は神以外の組織の礼賛にあたること、宗教的な由来をもつ踊りについても異教の崇拝にあたるとして、いずれも禁止され他との報告が多い一方[13]、これらの禁止には明らかに地域差がある(会衆ごとにやっていい・やってはいけないの基準が統一されていない。教団が出版物において「騎馬戦」を取り上げて禁止したことはないと思われるが、実際には騎馬戦が「戦い」に該当するとして、参加しないよう圧力を受けた2世等は多い一方で、「参加できた」とする2世等もおり、この基準の不統一は「棒倒し」などの競技においてもみられるようである)。
⑭ 神社仏閣への参拝
異教の崇拝にあたるとして禁止される。学校行事についていえば、特に修学旅行などで神社仏閣をめぐる場合があるが、参拝やお祓いを受けることは禁止される。中には「神社仏閣に入ることも禁じられた」とする報告がある一方で、「崇拝行為をしなければ神社仏閣に入ることは構わない」と言われたケースも多い様子であり、基準の不統一さがみられる。
⑮ 生徒会役員・学級委員等の選挙
エホバの証人は、国政選挙・地方議会の選挙を含め、立候補はもちろんのこと、投票自体に参加しない。理由は選挙に参加することが政治的中立性を損なうことになるからとされる。そして、学校内の生徒会役員選挙や学級委員の選挙は、「目的はほとんどの場合,若い人々をこの世の政治機構に慣れ親しませること」にあるとして、いわば国政選挙などに慣れ親しませるものであるとして、これに参加することも禁止される[14]。
⑯ 部活動
教団は、部活動についての参加を明示的に禁止はしておらず、信者の良心にゆだねるとしている。しかし、実際には、「学校のクラブ活動または部活動(課外クラブ)に加わる前に注意深く考慮しなければならないと感じて」いるとし、「クラブ活動は学校の授業時間内に限られていますか。・・・クラブに入ると,家族あるいは会衆の活動でより良く過ごせる放課後の時間が取られるようになりますか。」などの基準を示して、放課後に行われる部活動への否定的な意見を示している。実際に、2世等で部活動に参加していたものは非常に限定的である[15]。
(2)上記に述べる様々な行事・祝祭日のうち、エホバの証人が特に避けるべきとされる異教の習慣に関わるものに参加する場合、罪を犯したことになり、悔い改めない場合には排斥となる場合がある。排斥となった場合に忌避の対象となることはすでに述べた通りである。
3 学校行事に参加できなかった経験
設問 |
エホバの証人の教理を理由に特定の授業科目や特定の学校行事に参加出来なかったことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
回答の96%、537人が学校行事に参加できなかったことがあると回答した。 |
4 参加できなかった学校行事の種類
設問 |
どのような学校行事に参加出来ませんでしたか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教理を理由に特定の授業科目や特定の学校行事に参加出来なかったことがあると回答した人を対象とし、横軸を「参加できなかった学校行事」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「教理を理由に特定の授業科目や特定の学校行事に参加出来なかったことがある」と回答した537人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①国家・校歌の斉唱、国旗・校旗の掲揚に参加できなかった人が、約98%。 ②季節の行事や体育祭行事が参加できなかったのは約92%。 ③体育祭行事に参加できなかったのは約87%。 |
5 学校行事に参加できなかった理由
設問 |
学校行事へ参加しなかった理由を教えてください? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で教理を理由に特定の授業科目や特定の学校行事に参加出来なかったことがあると回答した人を対象とし、横軸を「参加しなかった理由」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「教理を理由に特定の授業科目や特定の学校行事に参加出来なかったことがある」と回答した537人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①保護者からの働きかけにより学校行事に参加できなかった子どもが量的に確認された。宗教虐待Q&Aの構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。 ②出版物での記載、大会や集会における講演での指示・暗示、周囲の信者の働きかけなど、教団組織の関与も量的に確認された。 但し、教団の関与は、現行法のもとでは児童虐待とは言えないため課題である。 |
6 学校行事の参加制限の経験に関する自由記述の回答例
設問「学校行事に参加ができないことについて、 いつ、どこで、誰が、どういう行事に参加できなかったご経験があるかできるだけ詳しくご記入ください。また、学校行事について、第三者(親、長老や幹部信者等)から参加しないよう指導や推奨があったケースに遭遇されたことがある場合には、その点も併せてご記入ください。なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。
90年代に小学校で私自身が参加できなかった行事は、豆まき、どんど焼きなどです。 |
私の経験ですが、小学生の時に運動会の盆踊りに参加できず、小●の時の担任は、私の宗教上の理由でという説明では納得せず、結局母が学校に出向き、信教の自由だと言って、渋々納得してもらいました。 |
小中学校のキャンプファイヤーは、火の神をまつる偶像礼拝とみなされ参加できなかった。 ・小・中・高校にて |
・親からの指導により、誕生日、七夕、クリスマス行事への学校でのクラス行事参加を禁止されました。また、これらの行事参加拒否が困難なことから、幼稚園/保育園に行かせることを良しとしない価値観が会衆にありました。行事参加禁止については会衆内でも共通認識が共有されており、親同士の会話で頻繁に出てきます。 ・運動会、体育祭において、応援合戦に参加することを禁じられていました。また、騎馬戦に参加できないことをクラスメイトの前で証言するよう指示を受け、そのようにしました。 ・高校の体育で、柔道を禁止されました。体育教師への説明を行いました。親の指導によるものです。また、柔道を強制しない高校の情報について、会衆内で情報が共有されていました。 ・バレンタインではチョコレートを受け取らないよう、長老の妻と、長老の息子が、他の信者に指導していました。 |
本人の特定を避けるため、「●」の加工を当弁護団で行っています。
7 学校行事への参加制限についての小括
(1) 2世等の児童が保護者及び教団の指導に基づいて、「信仰する宗教の教え・決まり等を理由として」、「様々な学校行事等に参加することを制限されていた(制限されている)ことが量的に確認された。
(2) エホバの証人の保護者による学校行事の制限は宗教虐待Q&Aに示された構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。
(3) 教団が、出版物や大会・講演などを通じて、信者に対し特定の行事(これには学校生活で経験する行事もあれば、通常は経験しないものまで幅広く含まれる)に参加するべきではないと明言し、これを2世等に教えるよう強く推奨するという実態が確認された。
つまり教団が、学校行事等への参加制限について、信者による児童虐待を促進又は推奨していると評価できる。
但し、教団が信者による児童虐待に実質的に関与している又は加担していると評価できるかは行事の種類によると思われる。例えば、参加を制限される学校行事について、これに参加すること又は参加することが、背教の罪にあたり、排斥などの懲戒措置が現実的に講じられるような場合には、教団が信者による児童虐待に実質的に関与している又は加担していると評価できると思われるが、そうではないようなケース(個人の良心にゆだねられる場合など)では、教団が信者による児童虐待に実質的に関与している又は加担していると評価することには慎重な評価やより深い分析が必要と考えられる。
とはいえ、教団が出版物や集会・大会などを通じて、特定の学校行事への参加を行わないよう強く推奨し、教えるという実態が確認されるにもかかわらず、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、教団の行為が直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと解され、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。
出典
[1]『学校とエホバの証人』p.18
[2]『学校とエホバの証人』p.19
[3]『学校とエホバの証人』p.20
[4]『学校とエホバの証人』p.20
[5]『学校とエホバの証人』p.21
[6]『学校とエホバの証人』p.21
[7] 『学校とエホバの証人』p.21
[8] 『学校とエホバの証人』p.22
[9] 『学校とエホバの証人』p.21
[10]『目ざめよ!1976年3月22日号 p.28–29 柔道や空手を習うのは正しいことですか』
『学校とエホバの証人』p.29
[11] 『自分を神の愛のうちに保ちなさい』p.212
『学校とエホバの証人』p.13-17
[12] 『ものみの塔1964年9月15日号 』p.571 若い人たち,在学中も忠実を保ちなさい』
『学校とエホバの証人』p.17
[13] 応援団について『学校とエホバの証人』p.24
[14] 『ものみの塔1964年9月15日号 p.571–572 若い人たち,在学中も忠実を保ちなさい』
『学校とエホバの証人』p.17
[15] 『学校とエホバの証人』p.24