本考察は、2023年11月20日に公表された「宗教団体「エホバの証人」における宗教の信仰等に関係する児童虐待等に関する実態調査報告書」に掲載された内容をそのまま転載したものです(項番等もそのままにしてあります)。エホバの証人信者への迫害・ヘイトはしないようにお願い申し上げます。 報告書の目次 |
Contents
第9 宗教の布教活動の強制
1 エホバの証人の布教活動について
(1) エホバの証人内部における布教活動の位置づけ
エホバの証人は世界中で布教活動を極めて熱心に行っており、この布教活動は同宗教において最重要視される根幹たる宗教行為である。日本のエホバの証人内では、この「エホバの証人という宗教の布教活動」のことを「伝道」と総称するため、本報告書でもこの表現を使用する。なお、「伝道」以外に、「野外奉仕」・「奉仕」・「野外宣教」といった言葉がエホバの証人内では同意義・ほぼ同頻度で用いられる。
伝道の最も基本的な方法は、「家から家の伝道」と教団内で称されるように、自らが居住する地域社会の一定の地域範囲内において、一般家庭であれ企業であれ、1件づつ家や、店舗、会社の事務所等をいわばしらみつぶしに直接に訪問し、対応するために出てきた人物に対して、対面で布教活動をすることである。また近年においては、エホバの証人の出版物を並べた大型のカートを人通りの多いところに設置しそれを展示するとともに、カートの横で出版物を手で掲げてアピールする方式もとられている。
(2) 子どもと伝道の関係及びその組織内の構造
教団は、信者である親に対して、子どもにも布教活動に参加するよう非常に強く推奨しており、子どもに「伝道者」になることを勧めるべきこと、布教活動に参加しエホバの証人の信条を述べ伝えることについて教育することを求めている[1]。そして実際に、多くの親である信者は忠実にこれを実行している。
また、各会衆の集会においては「神権宣教学校」という名称の下[2]、伝道者育成のためのカリキュラムが設けられ、個別の信者全員(10代にも達していない子どもが参加することも多い)が順番に総当たりの方式で、集会出席者全員の前すなわち演壇に登場し、男性については教理や(エホバの証人の聖書解釈に基づく)聖書の教えを聖書から講演する場が設けられ、女性については非信者に対して教理や(エホバの証人の聖書解釈に基づく)聖書の教えを伝える寸劇調のデモンストレーション[3]を行う場が設けられ、布教活動を「上手に」行う訓練をされてきている。
「神権宣教学校」/「クリスチャンとしての生活と奉仕の集会」を含め、これらの訓練カリキュラムには子どもが参加することが推奨されており[4]、実際に信者の子どもは、幼少期(乳幼児も連れられることは決して珍しくない)から信者の親と伝道活動に参加し、ごく幼い頃(小学校入学前後の年齢も珍しくない)から神権宣教学校に加入し訓練を受けてきている。
※なお、このように、非常に幼い頃には「神権宣教学校/クリスチャンとしての生活と奉仕の集会」の生徒となり→「伝道者」という立場になり→10代前半という若い年齢で「バプテスマ」を受けるというエホバの証人の正式信者に至る一連の流れを形作る仕組みが教団内で用意されており、事理弁識能力を持ち始めた時点頃の幼少期からこの流れに沿って正式信者となってゆくケースは、2世等に多く見られるものである。
(3) 伝道の特殊性と子どもにとっての意味
伝道にあたり、児童であってもほとんどの場合は最初から最後まで自らの口で伝道をする必要があること、その際には児童であっても正装(例:男の子であればネクタイに背広という、小学校の入学式や卒業式の際を思わせる服装)で参加して自分の居住区域の道を数時間単位で歩くこと、伝道の対象者は、たまたま出てきた自分の同級生であったり、或いは、ビジネス街や商店等で稼働中の大人であったりする(相手を選べない)という点が非常に重要な特徴である。すなわち、信仰を持つ/持たされている子どもにとっても相当のストレスがかかる宗教行為であり、信仰心がなく参加を強制される子どもにとっては恥辱感・屈辱感等の相当の心理的負担を引き起こし得る行為であると言うべき宗教行為である。
教団は、伝道をすることについて「述べ伝える責務がある」、「確固とした信仰をもつべき」、「(伝道をすることで)エホバの心を歓ばせることができます」と述べて強い推奨を繰り返し発しているところ、その中には「同級生に出会った場合でも伝道をするように」という具体的な指導すらもあり[5]、児童が伝道活動に参加することについて抵抗感があることを十分認識した上で、これを乗り越えて当該宗教行為を継続的に行うように指導しているとの解釈もとり得る。
また、これらの伝道活動について、信者らには月ごとに伝道に費やした時間を教団に報告する義務が課せられてきており、このシステムが子どもを含めた信者らに対して、伝道に参加しているか否か、その費やした時間は何時間であったかを長老や教団が把握しているという認識を浸透させていたし、伝道をしていないこと/伝道時間が少ないことを理由に親や長老から説諭される状況が制度的に設定されていた[6]。
2 宗教虐待Q&Aの記述
参考:
問3−1・・・「〜しなければ滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと、恐怖の刷り込みを行う等の心理的虐待
問3−2・・・児童に対し、特定の宗教を信仰しない者との交友や結婚を一律に制限するような行為(誕生日会等の一般的な行事への参加を一律に制限する行為を含む。)を意味する。
3 伝道に参加することを求められたか
設問 |
あなたが18歳未満の時に、伝道(奉仕)に繰り返し参加することを |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で伝道に行き始めたのが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
約97%、523人が「伝道(奉仕)に繰り返し参加することを求められたことがある」と回答。 |
4 「伝道に行かなければハルマゲドンで滅ぼされる」という趣旨のことを言われたことがあるか
設問 |
あなたは保護者や教団関係者に「伝道に行かなければハルマゲドンで滅ぼされる」「伝道に行かなければ楽園に行けない」という趣旨のことを言われたことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で伝道に行き始めたのが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
①約76%、410人が「伝道に行かなければハルマゲドンで滅ぼされる」「伝道に行かなければ楽園に行けない」と言われた、と回答した。 ②宗教虐待Q&Aの「問3−1にあるような行為[7]を通じて児童に対して宗教の布教活動を強いるような行為」に該当すると考えられる。 |
5 「伝道に行かなければ鞭をする」と言われたことがあるか
設問 |
あなたは保護者や教団関係者に「伝道に行かなければ鞭をする」と言われたことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で伝道に行き始めたのが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
①約半数が「伝道に行かなければ鞭をする」と言われたと回答。 ②宗教虐待Q&Aの「宗教の布教活動に参加させるために、脅迫を用いた場合」に該当するとしか判断のしようがない。 ③実際に、「伝道に行きたがらなかった」「伝道中に生き生きとした笑顔がなかった」などの理由で、伝道に参加した後に過酷な鞭をされたという報告がある(そうしたケースは相当に多いものと推測される)。 |
6 伝道したくないのに伝道に参加させられたと感じたことがあるか
設問 |
あなたは、自分は伝道したくないのに保護者や教団関係者から指示・推奨されて伝道をしたと感じたことがありますか? |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で伝道に行き始めたのが18歳未満と回答した人を対象に作成した。 |
結果と考察 |
①約92%、499人が「伝道したくないのに保護者や教団関係者から指示・推奨されて伝道をした」と感じた、と回答。 ②宗教虐待Q&Aの「児童に対して宗教の布教活動を強いるような行為」に該当すると強く推認できる。 |
7 伝道に参加するよう働きかけたのは誰か
設問 |
集会や伝道(奉仕)への参加について、教団からどのような働きかけがありましたか?あてはまるものをすべてお選びください。 |
集計方法 |
エホバの証人の活動に参加した(関与させられた)のが18歳未満と回答した人で伝道に行き始めたのが18歳未満と回答した人を対象とし、横軸を「働きかけの主体」、縦軸をその人数で作成した。 %の数字はそれぞれの回答人数を「伝道に行き始めたのが18歳未満」と回答した542人で割った割合を示す。 |
結果と考察 |
①保護者の働きかけにより伝道させられたことが量的に確認された。 宗教虐待Q&Aの構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。 ②出版物での記載、大会や集会における講演での指示・暗示、周囲の信者の働きかけなど、教団組織の関与も量的に確認された。 但し、教団の関与は現行法のもとでは児童虐待とは言えないため、何らかの対策が必要ではないか。 |
8 布教活動の強制の経験に関する自由記述の回答例
設問「集会・伝道(野外奉仕)・大会・ベテル奉仕・建設奉仕等について、5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に対して、どういった活動をされたか)を要素としてできるだけ詳しく、ご自由にご記入ください。長老や幹部信者から指導や推奨があったケースもある場合には、その点も併せてご記入ください。なければ「なし」とご記入ください。」という問に対する個別回答の一部を以下に示す。
伝道で家々を訪ねて、ものみの塔もしくはパンフレットを渡していた。 親と回っていると「子供にこんなことをさせて、、本当は遊びたいだろうに」と言ってくれる人がいた。 集会は週3回でそのうち2回は王国会館、1回は信者宅に集まり書籍研究を行っていた。 集会に行きたくないというと鞭50回だと叫ばれ、行きたくなくてもいかざるを得なかった。 |
学校以外は全て宗教的時間で埋め尽くされていた |
土日はほぼ野外奉仕でした。地図をコピーしたものを配られ、訪問した家に蛍光ペンで印をつけるのが私の役割でした。 |
行くことが当たり前、行かなきゃいけないものとなっていた |
・小さいころから、母親に連れられて行かされていた ・自分で話せるようになると、自分の言葉で伝道するよう仕込まれた ・集会で壇上に上がり、パフォーマンスさせられた (こう言われた場合を想定して、自分と相手役の台詞を考え、ロールプレイングする)。 親や長老、幹部からは伝道に行くのは当たり前と言われており、何時間携わったも記入していた。 |
集会の終わり時間を覚えていないので、その回答が曖昧ですが、かなり暗かったので21時以降と考えました。 奉仕を周りから強制される、と言うより、参加した事を周りの皆が褒め称えるという環境だったので、参加しなければ話しかけられない、というような、圧力がありました。 |
幼い頃から小学◯年生まで母親に集会(火曜の夜7時、木曜の夜7事、日曜の朝9時)へ週3回連れて行かれていました。土日に布教活動にも連れ回され、知らないお宅へ宗教の冊子を配り歩く事を強いられていました。 年に数回、大会という大きなイベントがあり幕張メッセの会場等で信者の集まりにも連れて行かれました。朝から夕方まで丸一日のスケジュールを3,4日連日行うもので、大人しく話を聞いてるフリをして母親の隣に座って居なければ、容赦なく「愛の鞭」という拷問道具で何度も何度も叩かれました。 |
集会と伝道活動は小学生から中学生の頃まで、私がうつ病になるまでは強制的に参加させられていました。 抵抗しても半ば引きずるように連れて行かれ、帰ってきてからは不参加の意思を理由に体罰と説教を必ず受けていました。 伝道では小学生の頃にはインターホンを押すことを強要され、最初の「エホバの証人というもので地域の方々に~」というセリフも言わされていました。 出版物を渡せる状況では「なるべく子供が渡すように」との指導が集会であったと記憶しています。 伝道についてはうつによるパニック障害でエホバ教に縋るようになってしまった時期があり、その際に伝道者として登録はされました。 その後うつが悪化したことや無気力状態が多発するようになったことなどで、実際に自らの意思で伝道を行なったことは数回しかありません。 |
本人の特定を避けるため、「◯」の加工を当弁護団で行っています。
9 布教活動の強制についての小括
(1) 鞭の恐怖、ハルマゲドンの恐怖を背景にして本人の真の自由意思に反した布教活動の強制が行われていたことが量的に確認された。
(2) 「自分は伝道したくないにもかかわらず、保護者や教団関係者から指示・推奨されて伝道をせざるを得なかった」とする回答が約9割であった。
エホバの証人の伝道は、回答者のボリュームゾーンが、教団内で過ごした1970年代から2000年代については、少なくとも週のうち休日を含む数日を費やすケースが多く、放課後に友人と遊ぶことや部活動を含む課外活動に参加することよりも、学校から帰宅後速やかに伝道に参加することが推奨されていた。
また、伝道する際の服装については、信者らが考える正装(小学校の入学式や卒業式の服装を連想させる類のもの)が求められ、小さな子どもであってもそのような人目を引く服装で一般家庭、商店街、ビジネス街など人がいる場所であればどこへでも行くものであり、さらにその地域は「自分の居住区域近傍」に集中的に限定されるものである。
伝道は、場合によっては子どもの同級生の自宅を対象に行われることもあるという性質、そしてもとより、遊ぶ時間や勉強する時間を犠牲にしておこなうものであるという点などからして、児童が自らの自由意思で伝道を希望することは極めて稀であり、信者である保護者や教団関係者からの強い働きかけがその背景にあるのは明らかといえる。
多感な時期の子どもが、遊ぶ時間や勉強する時間を犠牲にした上で、学校の同級生やその親、そして社会一般の大人から奇異な目で見られることによる精神面でのダメージやこれに起因して起こり得る「いじめ」や「からかい」は、児童の成長に深刻な影響を与えるものになり得る。実際に、「伝道の際に同級生が家から出てきて、七五三のような恰好をした上で、日常生活と全く違う口調で証言を強要されたことによる精神的ダメージは相当のものであった」という旨の報告があった。
(3) エホバの証人の保護者による伝道の強制は宗教虐待Q&Aに示された構成要件を満たし、児童虐待に該当する可能性が高い。
そして、教団が、出版物・集会・大会・講演・幹部信者による個別の働きかけ等により、児童による伝道活動を強く推奨しているという実態が確認されたことから、教団は信者による児童虐待を促進し又は許容しているといえる。
さらには、教団による児童への伝道活動の働きかけは、信者である親を通じて行われるものだけではなく、「神権宣教学校/クリスチャンとしての生活と奉仕の集会」等を通じて直接的に児童への伝道にかかる指導がなされており、実際の伝道活動の際も親以外の信者(幹部信者が含まれる。)が子どもとペアを組んで、親不在の状況で子どもを参加させている実態を踏まえれば、伝道の強制による児童虐待は、教団が関与し加担していると評価し得ると考えられる[8]。
一方、教団による関与又は加担が確認されたとしても、現在の児童虐待防止法を含む児童の保護を図る法制度を前提とすれば、教団の行為が直ちに「児童虐待」にあたるとは言えないと解され、信者である保護者による虐待行為を助長又は促進させる行為に対して何らかの法規制を及ぼす等の対策が必要ではないかと考える。
出典
[1] 『王国宣教1997年6月号「親の皆さん ― 宣べ伝えるようお子さんを訓練してください」、『王国宣教2005年6月「家族の予定-家族での野外奉仕」』
[2] 「神権宣教学校」は2015年頃に廃止され、現在は「クリスチャンとしての生活と奉仕の集会」という名称で、同種の訓練がなされている。
[3] エホバの証人内ではこれを「実演」と呼称し、当該デモンストレーションの固有名詞として同宗教社会内で定着している。
[4] 『王国宣教2001年1月号 親の皆さん ― お子さんに有益な習慣をしっかり教えてください』等
[5] 『目ざめよ!2002年2月22日号 若い人は尋ねる 同じ学校の子に会ったら,どうしたらいいのだろう』
『目ざめよ!3月22日号若い人は尋ねる どうすれば学校の友達に証言できるだろう』
『ものみの塔1991年7月15日号 クリスチャンの若者たち 確固とした信仰を持ちなさい』
『若い人が尋ねる質問 実際に役立つ答え 第1巻p.276』等。
[6] この報告は教団指定の書式を使用して行うものとされ、当該書式による伝道時間の教団への報告には「奉仕報告」という固有名詞も付与されており、システム化されてきていた(『王国宣教1988年9月号 野外奉仕を正確に報告する』、『王国宣教2002年12月号正確な報告に貢献していますか』等)。なお、教団世界本部はこの運用を過去103年間にわたり堅持してきたが、意図は不明であるものの、2023年10月13日に突然、同年11月1日以降は、一般の伝道者(正規開拓奉仕者や補助開拓者は除く)について奉仕時間の具体的報告の義務を廃止することを突然発表した。但し、「伝道に参加したか否か」についての報告は引き続き要求される様子である。
[7] 問3―1:「〜しなければ滅ぼされる」などの言葉を用いて宗教活動への参加を強制すること。
[8] 但し、2世等の伝道参加への強制度合については、回答者の実経験のボリュームゾーンである1970年代から2000年代、そして現時点(2023年11月)と比較すると弱まってきている可能性もあり、教団による児童虐待への実質的関与又は加担が今後も生じ続けるか否か及びその程度がどれほどであるかについては、今後の経過観察が必要と考える。